民法改正講義案4(売買1)-瑕疵担保責任はどうなった?-

今日からは、売買です。

 1 債務不履行に一本化・瑕疵担保責任の廃止

【第562条】
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

【第563条】
1 前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

【564条】
前二条の規定は、第四百十五条の規定による損害賠償の請求並びに第五百四十一条及び第五百四十二条の規定による解除権の行使を妨げない。

(1)ひとこと解説

契約内容に適合しない物が引き渡された場合、履行の追完(目的物の修補・代替物の引き渡し・不足分の引き渡し)を請求できるようになりました。
請求しても履行の追完がなされなかった場合、代金減額請求もできるようになりました。

(2)例

先に例を挙げた方が分かりやすいと思います。

ア 中古車に傷があった場合は、傷の修理をできます(目的物の修補)。
イ 買った本が汚れていた場合は、新品の本を渡すよう請求できます(代替物の引き渡し)。
ウ ビール缶1ダースを買うはずだったのに、10本しかなかった場合には、さらに2本追加請求できます(不足分の引き渡し)。

(3)詳細な解説

今回ご説明した内容はすべて、債務不履行責任とされます。つまり、瑕疵担保責任は廃止されたのです。ただし、瑕疵担保責任が廃止されたといっても、旧法と同じく、解除や損害賠償請求も可能です。

結論的には、納得ができる内容だと思われます。

しかし、旧法をご存知の方からすると、大きな改正であるとお考えになるでしょう。旧法では、個性に着目した売買(特定物売買)においては、たとえその物に傷や不具合があろうと、その状態で引き渡せばよいとされていました。中古車売買でいえば、どんなに傷があろうと、その状態で引き渡せばよかったのです(個性に着目するということは、売主・買主にとって、この世に1つしかない物について売買したことになり、替えがきかないからです。)。しかし、それでは、買主がかわいそうなので、「瑕疵担保責任」という特別の概念を持ち出して、買主を保護してきました。

しかし、「たとえその物に傷や不具合があろうと、その状態で引き渡せばよい」という考え自体が、むしろ、今の時代にそぐわないとされました。そこで、特定物であろうとなかろうと、契約の内容に不適合な物を渡されたら、履行の追完を求めることができるようになったのです。

(4)補足

ア 562条1項ただし書きの例

XさんがY自動車屋で中古車を買ったとします。Xさんが自宅に持ち帰ってよく見たところ、その中古車に傷があるのを発見しました。Xさんは、縁起が悪いと思い、Y自動車屋に対し、他の中古車と交換するように請求しました。しかし、傷の修理が可能であり、修理によって目立たなくなるのであれば、Y自動車屋は修理にのみ応じればよいことになるのです。

イ 562条2項の例

中古車の買主Xさんが、自分で運転して持ち帰る際、どこかにぶつけて傷ができてしまった場合、XさんはY自動車屋に修理を求めることはできないのです。