民法改正講義案3(法定利率1)-法定利率は何%?-

 1 法定利率は3%になった

【第四百四条】
1 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年三パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。

(1)ひとこと解説

新法施行時点における法定利率は年3%になりました。商事法定利率(6%)は廃止されます。

(2)補足

契約において、利率を決めずにお金をやり取りすることは極めて珍しいです。つまり、契約がある場合に、この改正が影響を及ぼすということは考えにくいといえます。
したがって、契約がないのに利息が生じる場合に、新法が重大な影響を与えることになるでしょう。

(3)例

一番影響を受けると思われるのは、交通事故です。

交通事故が発生すると、何ら契約はありませんが、加害者は被害者に損害賠償として大金を支払う義務が発生します。

仮に、仕事をしている方が、交通事故で亡くなった場合、将来稼げたはずの給料も損害として認められることが多いです(ただし、生活費として30%~50%は控除されてしまいます。 )。

たとえば、37歳のAさんが交通事故で亡くなった場合、特別の事情(数年後に退職が決まっていたなど)がない限り、67歳までは働けたものと仮定して、損害が計上されることが多いです。つまり、毎年、死亡当時の年収が、67歳まで毎年受け取れていたのに、受け取れなくなったことが損害と考えられているのです。

しかし、本来、年収は、1年ごとに受け取れるものです。生存している場合、37歳時点で、67歳までの30年分の年収を一括で受け取れることはありません。

もし、30年分の年収を一括で受け取れたとしたら、そのお金をさらに運用して、儲けることができます。そこで、「運用できるのだから、一括で受け取れる額は、運用益を減らした額にするのが公平である」というのが裁判所の考え方です(この運用益のことを、法律用語では「中間利息」といいます。)。

ここで、運用益(中間利息)をいくらにするのかが問題となります。
実は、運用益は、法定利率年5%とされています。つまり、このマイナス金利のご時世でも、年5%で運用できるものとして計算されてしまうのです。

この運用益が新法では3%になります。

もちろん、5%で運用したときと、3%で運用したときと比べると、3%で運用したときの運用益の方が少ないです。つまり、減らされる額は少ないということになります。

減らされる額が少ないということは、受け取れる額は多くなるという意味です。

したがって、今後、交通事故で死亡してしまった方の損害賠償金は多額になることが予想されます。多額になれば良いではないかと思うかも知れません。損害賠償金が高くなるということは、保険会社の支出が増えることになり、ひいては保険料の増額につながりえます。

民法改正が、保険業界にも影響を及ぼしそうです。

(4)より詳細な具体例(長いです。お手すきの時に読んでください。)

仮に、仕事をしている方が、交通事故で亡くなった場合、将来稼げたはずの給料も損害として認められることが多いです(ただし、生活費として30%~50%は控除されます。 )。

たとえば、37歳のAさんが交通事故で亡くなった場合、特別の事情(数年後に退職が決まっていたなど)がない限り、67歳までは働けたものと仮定して、損害が計上されることが多いです。つまり、毎年、死亡当時の年収が受け取れていたのに、受け取れなくなったことが損害と考えられています。

したがって、『死亡当時の年収×(67歳-37歳)×(1-生活費控除率)』という計算式で出てくる数値が、損害とされると考えるのが自然でしょう。
そうなると、交通事故の場合、ご遺族は、この計算式で出てきた額を一括で受け取れることになりそうです。

しかし、そう簡単には行きません。Aさんが生きていれば30年かけてやっと受け取れる額を一括で受け取れるということは、遺族は一括で受け取った後、30年かけて運用し、さらに増やすことができるのです 。そこで、「運用できるのだから、一括で受け取れる額は、運用益を減らした額にするのが公平である」というのが裁判所の考え方です。

ここで、運用益をいくらにするのかが問題となります。
実は、運用益は、法定利率とされている。つまり、このマイナス金利のご時世でも、年5%で運用できるものとして計算されてしまうのです。
したがって、実は、先ほどの『』の中は、現在の実務を踏まえると誤りです。実際には、『死亡当時の年収×(67歳―37歳)×(1-生活費控除率)』のうち、「(67歳―37歳)」が不正確です。実際には、「30年間分の年5%による運用益を踏まえた数字」(ライプニッツ係数)に変えなければいけません。
ちなみに、「30年間分の年5%による運用益を踏まえた数字」は、15.3725です。
つまり、死亡当時の年収に30を掛けるのではなく、15強を掛けることになります。感覚的には約半分です。1年ごとに年5%で運用していけば、30年で倍 になるであろうということなのです。

なお、1.05の30乗は4を超えるのであるから(1.05^30≒4.32)、「30年で倍」はおかしい。
「30年で4倍」という計算になるはずではないか、とお考えの方もいらっしゃると思われる。
そこで、より厳密なお話をさせていただく。
正確にいえば、Aさんは、1年ごとに年収を受け取れたはずなのである
(仮に月給制であっても、計算の便宜のため、年単位で収入があるものと仮定して計算する。)
たとえば、Aさんが2031年に37歳で死亡したとすると、2060年までの給料が損害とされる。
2032年分の給料は、Aさんが生きていても29年分はAさん自身で運用できたはずなので、
死亡していても、生存していても、最終的な手取りに変化はない。
生存していた場合との差がないのであれば、特に考慮する必要はない。
つまり、2032年分の給料については、1年分の運用益のみ引けばよいことになる。
2033年分の給料は、2年分の運用益を引く……、2059年分の給料は、29年分の運用益を引く、
2060年分の給料は30年分の運用益を引くということになる。
つまり、「30年間分の運用益」とは、「1年分の運用益+2年分の運用益+……+
29年分の運用益+30年分の運用益」である。
単純に全額について30年運用するのではなく、
1年ごとに受け取って運用するものと仮定して計算していくので、
1.05の30乗と、「30年間分の、年5%による運用益を踏まえた数字」は異なるのである。

さて、利率が高ければ高いほど、運用益は高くなります。運用益が高くなると、交通事故の損害賠償として、一括でもらえる額は低くなります。逆にいえば、利率が低ければ低いほど、運用益は低くなります。運用益が低くなると、交通事故の損害賠償として、一括でもらえる額は高くなります。

つまり、法定利率が3%になれば、一括でもらえる額が大きくなります。「30年間分の年3%による運用益を踏まえた数字」は、約19です(5%の時とくらべて、約1.25倍です。)。

したがって、民法改正後、交通事故の損害賠償金は増えることになると思われます。
増えるなら被害者の方に有利なのでそれで良いのではないかとお考えの方も多いかも知れません。

しかし、損害賠償金が増えるということは、保険会社の支出も増えるということです。保険会社の支出が増えれば、当然、保険料に跳ね返ってきます。
よって、今後、自動車の保険料が上昇するかも知れません。