Torrent関係Q&A4~事件化していない?~

Q BitTorrentに絡む発信者情報開示請求を受けている方が多くいると聞いています。しかし、実際に、損害賠償請求の裁判を起こされたとか、刑事事件になった話は、聞いたことがありません。BitTorrentを使っても、意外となんともないのではないでしょうか。

A まず、発信者情報開示請求を拒否したことにより、権利者(著作権者)が、プロバイダに発信者情報開示請求訴訟を起こしている例は、相当数あります。ただ、損害賠償請求の裁判や、刑事事件は、確かに、私も、ほとんど聞いたことがありません。しかし、公開されていないだけの可能性はあります。楽観視はできないと考えます。

【解説】

最高裁の判例検索システムで、「BitTorrent」と入力して検索すると、発信者情報開示請求に関する裁判例が、多数出てくると思います。しかも、そのほとんどは、発信者情報開示を認める判決です。

検索ソフト(ウエストローや、判例秘書など)をお持ちの方は、同様になさると、もっと多く裁判例が見つかるかも知れません。

このように、発信者情報開示を拒否したことが発端と思われる裁判例は多数見つかります。

しかし、発信者情報開示後の損害賠償請求の民事裁判や、発信者情報開示後の刑事裁判の裁判例は、ほとんど見つかりません。

ただし、これをもって、「発信者情報開示後の損害賠償請求の民事裁判、発信者情報開示後の刑事事件が無い」と断定することは、私にはできません。

令和4年度司法統計年報概要版(民事・行政)からすると対席の判決に至るのは、全体の約25%に過ぎません。

「対席判決」とは、欠席判決の反対語です。つまり、原告と被告が主張を戦わせたうえで裁判官が判断した判決を指します。基本的に、対席の判決が公開の対象になります。

理論上、欠席判決も公開されます。しかし、欠席判決は、原告の主張をそのまま認めただけのものが多く、重要な意味を持たないので、公開の対象になることは稀です。

和解は、双方が歩み寄って民事訴訟を終わらせるものです。和解条項が公開されることは、極めて稀です。
和解は、統計上でも、約33%となっております。そのうえ、私個人の経験からいえば、和解が成立する確率は、80%を超えています。
取下げは、理屈としては、原告が訴訟を続けることを断念し、訴訟を打ち切ることを指します。訴訟打ち切りである以上、何も公開するものがありません。

以上のとおり、民事訴訟のうち、約75%はそもそも公開されない形で終了します。
また、そもそも、対席判決の全てが公開されるわけでもありません。

つまり、私たちが見られる裁判例は、訴訟になったうちの4分の1以下でしかありません。
おおげさにいえば、私たちが見られる裁判例は、氷山の一角ともいえます。

以上、民事事件についてお話してきました。刑事事件も、結論としては同じです。
もちろん、「一度、刑事訴訟になれば、ほぼ100%判決となり、民事訴訟のような和解の制度は存在しない。」とか、「不起訴で終わっている件が相当数ある。」など、結論に至る道筋は、民事事件とかなり異なります。

しかし、結論としては、私たちが見られる刑事の裁判例も、やはり氷山の一角に過ぎないということで変わりありません。

ということで、裁判例が見当たらないからといって、事件になる確率が低いとは断定できないというお話でした。