Torrent関係Q&A2~狙い撃ち?~
Q 私は、BitTorrentで映画をダウンロードしてしまい、発信者情報開示請求を受けました。権利者と示談したいのですが、早く示談をすると狙い撃ちされて、次々に請求を重ねられてしまうという噂を聞きました。噂は本当でしょうか。
A 固定IPアドレスを使っているのでもない限り、権利者が意図的に請求を重ねることは、技術的に困難です。ただ、IPアドレスの性質上、示談後に再度請求が来るということはありえます。
【解説】
どうも、ネットの書込を見ていると、「BitTorrentで映画をダウンロードしてしまい、発信者情報開示請求が来ても、すぐには開示に応じない方が良い。開示に応じると、『簡単に示談に応じる人間だ』と思われてしまい、次々に発信者情報開示請求や損害賠償請求が来る。」という意見があるように思います。
しかし、IPアドレスの性質上、上記意見そのものには、首をかしげます。ただ、結果として、次々請求が来てしまうことはありえます。
以下、御説明いたします。
通常、IPアドレスは、変動します。確かに、変動しない固定IPアドレスも存在します。しかし、固定IPアドレスには追加料金がかかることがほとんどです。そのため、変動するIPアドレスを使っていらっしゃる方が大半だと思います。
IPアドレスが変動する場合、変動するタイミングは、プロバイダによって変わります。接続の度に変動したり、数時間ごとに変動したり、数分ごとに変動したり、数秒ごとに変動したりします。
例えば、Aさんが、2023年1月1日1時1分1秒に、IPアドレス1234を使っていたとします。しかし、明日になると、IPアドレス1234は、Aさんとは違う人が使っていることがほとんどです(本来、IPアドレスは、12ケタの数字です。しかし、分かりやすくなるように、当ウェブサイトでは、4ケタの数字でIPアドレスの代用とします。)。
IPアドレスは、使いまわしているというイメージを持つと分かりやすいと思います。
そして、権利者(映画会社など)は、IPアドレスしか把握していません。個人情報は、プロバイダが明かしてくれない限り、分かりません。そのため、権利者は、プロバイダに対し、「2023年1月1日1時1分1秒に、IPアドレス1234を使っていた人を教えてください。」という形で依頼します。
IPアドレスのみならず、時間まで特定しないと、プロバイダですら個人を特定できません。
たとえば、時間を指定せず、単に「IPアドレス1234を使っていた人を教えてください」と依頼しても、IPアドレス1234が、偶然にも固定IPアドレスでない限り、「対象者が多すぎて絞り切れません」と言われるだけでしょう。
したがって、例えば、Aさんが発信者情報請求を受けて、発信者情報開示に応じたとしても、さらには、示談に応じたとしても、権利者は、「2023年1月1日1時1分1秒に、IPアドレス1234を使っていた人」がAさんであるとしか分かりません。
仮に、他の日時に、IPアドレス1234の人が、BitTorrentでダウンロードしていたということが、権利者に発覚したとして、Aさんの行為とは断定できません。
また、仮に、Aさんが、2023年1月2日1時1分1秒に、IPアドレス5678を使って、BitTorrentでダウンロードしていたとしても、IPアドレス1234に関する示談に応じただけの段階では、IPアドレス5678がAさんであるとは特定できません。
したがって、権利者は、狙い撃ちしたくてもできないというのが、現状なのです。
ただし、権利者は、別途、「2023年1月2日1時1分1秒に、IPアドレス5678を使っていた人を教えてください。」と請求することは可能です。
そうなると、Aさんからすれば、IPアドレス1234の件で示談に応じた後に、IPアドレス5678の件で発信者情報開示請求が来るので、あたかも狙い撃ちされたような印象を持つということは十分ありえます。
ということで、発信者情報開示請求に応じるか否か、示談に応じるか否かで、追加の請求が来る確率には影響しないというお話でした。