裁判所には秘匿しない

前回、秘匿決定申立と閲覧等制限申立のお話をしました。
前回の話だけをご覧になると、「住所や氏名は、裁判所にすら秘匿するのであろうか?」とお感じになった方もいらっしゃると思います。
そうお感じになった方、大変申し訳ございません。説明を端折りすぎました。

秘匿決定や閲覧等制限申立をしても、裁判所に対しては秘匿しないということを、ご説明いたします。
実は、こんな条文があります。

第百三十三条 
2 前項の申立てをするときは、同項の申立て等をする者又はその法定代理人(以下この章において「秘匿対象者」という。)の住所等又は氏名等(次条第二項において「秘匿事項」という。)その他最高裁判所規則で定める事項を書面により届け出なければならない。
3 第一項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、当該申立てに係る秘匿対象者以外の者は、前項の規定による届出に係る書面(次条において「秘匿事項届出書面」という。)の閲覧若しくは謄写又はその謄本若しくは抄本の交付の請求をすることができない。

秘匿決定申立をする場合、氏名や住所は、別途「秘匿事項届出書面」というものを作成して、裁判所にだけ届け出ることになっています。

そして、秘匿決定が認められた場合、秘匿事項届出書面については、自動的に閲覧制限がかかります。

第百三十三条の二 秘匿決定があった場合には、秘匿事項届出書面の閲覧若しくは謄写又はその謄本若しくは抄本の交付の請求をすることができる者を当該秘匿決定に係る秘匿対象者に限る。

ここで、何か腑に落ちないものを感じた方がいらしゃるかも知れません。
上記の条文のとおり、秘匿事項届出書面だけは、自動的に閲覧制限が認められます。
逆にいうと、秘匿事項届出書面以外は、自動的に閲覧制限がかかるわけではないのです。

そうなると、前回の記事を思い出してください。私は「DV保護命令を添付すれば、秘匿決定が認められるかも知れない。」と申し上げました。
この秘匿決定申立時に添付したDV保護命令はどうなるのでしょうか。

実は、自動的に閲覧制限がかかるわけではないとされています。自動的に閲覧制限がかからないことを前提とした条文があるのです。

民事訴訟規則第五十二条の十一 法第百三十三条の二(秘匿決定があった場合における閲覧等の制限の特則)第二項の申立ては、秘匿事項記載部分を特定してしなければならない。
2 秘匿対象者は、自らが提出する文書等について前項の申立てをするときは、当該文書等の提出の際にこれをしなければならない。

なんとなく循環論法的に感じ、読みづらい条文です。
要するに、秘匿事項届出書面以外については、書面を出す際に閲覧制限等の申立をしないと、閲覧制限はかからないというものです。

したがって、秘匿決定申立の添付書面としてDV保護命令を出す場合には、秘匿決定申立時に閲覧等制限申立もする必要があるということになります。

ここまで読むと、何となく煩わしいとお考えになるかも知れません。
しかし、訴状を提出する場合、大抵は証拠を一緒に出します。証拠については、別途、閲覧等制限申立をしない限り、閲覧等制限はかかりません。
DV被害者が訴状を提出する場合、DV保護命令を訴状の証拠として添付するでしょう。
秘匿決定申立の添付書面としてのDV保護命令の閲覧等制限申立と、訴状添付の証拠としてのDV保護命令の閲覧等制限申立は、同一の機会にできます。
通常、訴状提出時に秘匿決定申立をするからです。

したがって、手間はそこまで増えません。なので、煩わしさもそこまで目立たないのではないかと思います。

なお、令和5年2月20日以降も、これまでの閲覧等制限に関する手法が禁止されるわけではありません。
これまでも、相手方に見せたくない部分をマスキングし、マスキング後の書類を、裁判所と相手方に提出するということはよく行われていました。
たとえば、お子様が元気に学校に通っていることを立証するために、通知表のコピーを証拠として提出したいとします。
その場合、通知表の学校名はあまり重要ではなく通知表に記載されている成績や出席日数が重要です。
そのため、通知表の学校名等をマスキングして提出するという手法は、よく使われていました。

このようなマスキングの手法は、令和5年2月20日以降も使えますので、ご安心ください。

相手方にはマスキングを提出し、裁判所にはマスキングなしを見せたい場合に、閲覧等制限申立が有効になってくるのではないかと推測しております。