児童虐待対応の大枠3~施設入所~
虐待を受けた児童が、一時保護を受けたり、どこか適切なところに避難をしたりして安全を確保し、児相による調査を経てもなお、元の家庭に帰ることが難しいとされた場合、どうすれば良いのでしょうか。
児童には、どこかに安定して住める場所を提供する必要があります。一時保護所や、一時的な避難場所では、児童も落ち着けないからです。
つまり、施設入所や里親での生活ということになります。里親での生活については、皆様にもご想像いただけると思います。そこで、施設入所に主眼を置いてご説明いたします。
ここでいう「施設」とは、児童養護施設(昔でいう孤児院)が主です。児童の年齢や、特性に応じて、乳児院、障害児入所施設、児童心理治療施設が選ばれることもあります(児童福祉法27条1項3号)。
実は、施設入所等(里親委託を含みます。以下同じ。)は、原則として、親権者の意に反して行うことができません(児童福祉法27条4項)。事実上、親権者の同意なく施設入所等ができないと決められています。
ここまでお読みになると、「同意する親権者なんて、ほとんどいないだろう」と思われるかも知れません。しかし、同意する親権者は、意外に多いと聞いております。統計をお示しできればよかったのですが、統計は見つかりませんでした。
つまり、親権者の同意を得て、施設入所等が行われることは珍しくありません。
そうはいっても、親権者が同意をしないこともまた、珍しくありません。
親権者が同意をしない場合には、どうしたらよいのでしょうか。
たとえば、親権者が虐待者の場合、同意がないからといって児童を元の家庭に戻してしまっては、児童に危険が及びます。
そのような場合には、家裁の承認の下、強制的に施設入所等を行うことになります。児童福祉法28条1項が根拠です。
第二十八条 保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第二十七条第一項第三号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる。
一 保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。
二 保護者が親権を行う者又は未成年後見人でないときは、その児童を親権を行う者又は未成年後見人に引き渡すこと。ただし、その児童を親権を行う者又は未成年後見人に引き渡すことが児童の福祉のため不適当であると認めるときは、家庭裁判所の承認を得て、第二十七条第一項第三号の措置を採ること。
家裁の承認という点では、一時保護の延長も同じです。しかし、条件が全く異なります。
第三十三条 児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる。
一時保護では、「必要があると認めるとき」といえさえすれば、可能でした。
しかし、施設入所等は、「虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」でないと家裁も承認してくれないことになっています。
つまり、単に、必要性があるだけでは施設入所等は認められないことを意味します。
これは、一度承認すると、2年間施設入所が可能になり、児童や親権者に与える影響が大きいからでしょう。
具体的に申し上げると、単に、虐待の事実を立証するだけでは不十分です。
「その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合」とあるので、なぜ、保護者のところに戻すことが、児童の福祉を害するといえるのかまで立証する必要があります。
たとえば、虐待の事実のみならず、仮に戻したら虐待が再開する可能性が高いという事実とか、親権者と施設とを比較し、施設に居る方が児童の為になるなど、なぜ、戻してはいけないのかまで立証する必要があるのです。
ここまで込み入ってくると、弁護士の取り扱い分野となります。弁護士は、条文を見て、どんな事実を、どのような証拠で立証すべきかを読み取る訓練を日々行っているからです。
私が、児相の非常勤職員として、児童福祉法28条1項の申立てをした際には、私はどのような証拠が必要かを検討し、証拠は常勤の児相職員さんに取得してきていただくといった形で、役割分担をお願いしていました。
これは一例ですが、児童を守るため、ぜひ弁護士を活用していただきたいと日々願っております。