児童虐待対応の大枠4~親権停止・親権喪失~

基本的には、虐待された児童も、施設入所等になれば、物理的な虐待からは逃れられます。

ただ、施設入所等になったとしても、親権者が親権を喪ったわけではありません。
例によって、施設の措置に対し、「不当に妨げてはいけない。」とされるだけです(児童福祉法47条4項)。

そうなると、たとえ虐待を受けていないとしても、問題が生じえます。

一つは、高校進学等の重大な契約です。
未成年者がした契約は、親権者が取り消すことが可能です。
そうなると、児童が高校進学を希望し、無事に高校受験に合格しても、高校との契約を親権者が取り消した場合にどうなるのかという問題が生じます。
個人的には、施設の措置を「不当に妨げた」ということで、親権者がした取消行為が無効になると思います。
しかし、高校によっては、紛争を忌避するあまり、親権者が「高校進学したら取消権を行使する。」と言っている児童の入学を躊躇うかも知れません。

もう一つは、医療同意です。
仮に、未成年者が病気になり、手術が必要になった場合、医療機関によっては、施設の同意ではなく、親権者の同意を求めることがあります。
個人的には、医療同意も施設の措置であり、親権者の同意までは不要だと思います。しかし、それで納得していただける医療機関ばかりではありません。

進学の契約が必要だったり、医療同意が必要だったりするにもかかわらず、親権者が応じない場合には、どうしたら良いのでしょうか。

いよいよ、親権者の親権を喪わせるより他ないということになります。
親権停止(民法834条の2)・親権喪失(民法834条)です。

(親権停止の審判)
第八百三十四条の二 父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

(親権喪失の審判)
第八百三十四条 父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない。

条文だけ見ると、児童福祉法28条1項よりも要件が緩やかではないかと思われるかも知れません。
しかし、施設入所等より、親権停止・親権喪失の方が効果が重大なので、なぜ、施設入所等では不十分で親権停止・親権喪失まで必要なのかを立証しないと、家裁は認めてくれないでしょう。

では、親権停止・親権喪失が認められた場合は、どうなるのでしょうか。
親権停止の場合は、最大で2年間、親権を喪います。
親権喪失の場合は、永続的に親権を喪います。
つまり、停止も喪失も、効力の期間以外は同じです。

では、親権者が親権を喪ったらどうなるのでしょうか。

まず、未成年後見が開始されます(民法838条1号)。
ただ、未成年後見人を探すのも一苦労でしょう。ということで、未成年後見人が就くまでは、施設長が親権者となります(児童福祉法47条1項)。

つまり、親権停止・親権喪失が認められると、未成年後見人か施設長が親権者となり、進学の契約や医療同意ができるようになるという訳です。なお、成年後見人は医療同意ができないとされていますが、未成年後見人は医療同意可能とされています。ご安心ください。

今日は、ここまでとさせていただきます。