相続に関するQ&A5~一字違いで大違い~

Q 先日、朝の連続テレビ小説「虎に翼」で、遺産分割調停が進んでから「(被相続人の配偶者が)相続を放棄した」というセリフが出てきました。死亡を知ってから3カ月以上経っていても、相続放棄はできるのでしょうか。

A おそらく、相続「分」の放棄を意味していると思われます。相続分の放棄であれば、死亡後、いつでもできます。

Q 相続分の放棄と、相続放棄は違うのですか。

A 全く違います。

【解説】

上記Qのとおり、朝の連続テレビ小説「虎に翼」で、遺産分割調停が進んでから「(被相続人の配偶者が)相続を放棄した」というセリフが出てきました。

劇中でハッキリとした時間経過は描写されていなかったように思います。
ただ、被相続人が死亡した後に、検認手続をし、遺産分割調停が少なくとも2回は開かれているように思われます。

したがって、被相続人(夫)の死亡を知ってから、被相続人の配偶者(妻)が「相続を放棄した」とされるまで3カ月は経っているでしょう。

そして、相続放棄は、死亡を知ってから3カ月を経過した場合は、原則として認められません(民法915条1項)。通常、死亡時と同時に死亡を知ることが多いと思われます。

ただ、劇中の配偶者は、複雑な状況でした。そのため、ひょっとしたら、検認手続直前に死亡を知ったという解釈もありえるかも知れません。それでも、検認から2回目の遺産分割調停までで3か月かかってしまうことは十分ありえます。

したがって、劇中の配偶者について、相続放棄が認められる可能性は低いと考えます。

これに対し、相続分の放棄は、被相続人の死亡を知ってから何カ月経ってもできます。例えば、死亡後、数年経ってから開かれた遺産分割調停で、相続分の放棄が認められることは珍しくありません。そのため、劇中の配偶者について、相続分の放棄が認められた可能性は高いと思います。

では、相続放棄と相続分の放棄はどう違うのでしょうか。細かいところも、いろいろ異なるかも知れません。しかし、絶対に抑えておいていただきたいのは、

・相続放棄では、被相続人の借金についても、支払義務を負わない。
・相続分の放棄では、被相続人の借金については、支払義務を負う。

という違いです。

相続放棄は、初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、被相続人のプラスの財産はもちろん、被相続人のマイナスの財産とも無関係ということになります。したがって、被相続人が借金を背負っていたとしても、支払義務は負わないのです。

しかし、相続分の放棄では、あくまで、相続人であることを前提に、自分の取り分を放棄するだけというイメージです。そして、放棄できるのはプラスの財産だけで、マイナスの財産は放棄できないことになっています。マイナスの財産は、相続人が自動的に背負うことになっているからです。

ということで、万一、劇中の被相続人(夫)に借金があったら、配偶者(妻)は、遺産を受け取れないうえに、借金だけ背負うということになっていました。
ただ、被相続人には借金は無かったようなので、一安心というところです。