Torrent関係Q&A5~賠償金の額は?~

Q これまでの記事を読んで、示談をする気になりました。示談するための賠償金の額は、いくらくらいでしょうか。BitTorrentを使ったことによる損害賠償請求訴訟の判決があると聞きました。

A 確かに、東京高等裁判所令和4年4月20日判決では、BitTorrentを使ったことによる損害賠償額が、一作品あたり10万円以下になるという判断が下されました。ただ、示談の際は、この東京高裁判決の考え方をそのままを適用してよいか否かは、別途検討した方が良いです。

【解説】

東京高等裁判所令和4年4月20日判決では、損害賠償額算出の基本的な考え方として、以下のような考えが示されました。

ここでは、Xさんが、Aという映画を、BitTorrentを使って違法にダウンロードした場合を想定します。

この場合、「Xさんが、BitTorrentを使ってAをダウンロードした日から、XさんがBitTorrentの使用を止めた時までに、第三者によってAがダウンロードされた数」×「Aという作品1本あたりの利益額」が妥当であるという考えが示されました。

つまり、BitTorrentでのファイルダウンロードは、ファイルアップロードを意味します。ファイルアップロードを意味するということは、ファイルをダウンロードした時点で第三者が違法ダウンロードをするのに加担したとなります。

そのため、Aさんがアップロードした日からのダウンロード数が、損害賠償の対象になるわけです。

ここで、「第三者がダウンロードするということは、その第三者もまたアップロード者となるから、Aさんだけが責任を負うのは不公平ではないか。」という御指摘があるかも知れません。

しかし、このように、複数人で一緒になって違法行為をした場合は、共同不法行為となり、各人が全責任を負います(民法719条1項)。連帯責任みたいなものだと思ってください。

ただ、実際には、XさんがBitTorrentを使ってAをダウンロードした日までの累計ダウンロード数や、XさんがBitTorrentの使用を止めた時の累計ダウンロード数は、正確には分かりません。したがって、Xさんが、BitTorrentを使ってAをダウンロードした日から、XさんがBitTorrentの使用を止めた時までに、第三者によってAがダウンロードされた数を正確に計算することは、困難です。

そのため、上記の東京高裁では、ダウンロード数を推定計算しています。推定計算方法まで御説明すると、さらに長くなってしまうので、割愛させてください。

そして、推定ダウンロード数が出たら、その数に、販売単価ではなく利益を掛けるのです。たとえば、1本4000円で売っている映画であっても、1本あたりの利益が500円であれば、4000円ではなく、500円を掛けるという訳です。

そのような計算をしたためか、映画を1本違法にダウンロードしても、損害賠償額は、2~10万円に留まるという判断になっています。

以上は、あくまで、純粋な民事訴訟としての計算です。つまり、民事訴訟のみを考えた場合には、以上のような計算になるでしょう。

しかし、今、BitTorrentで発信者情報開示請求が来ている段階に過ぎない場合、損害賠償請求訴訟も起こされていないし、刑事事件化もしていないはずです。

この段階で示談をする場合は、いろいろ考えなければなりません。確かに、この段階で、上記の東京高裁判決を持ち出し、権利者(映画の著作権者など)に対し、「1本あたり最大でも10万円しか支払わない」という交渉をすることも、理論上は可能です。

ただ、そうなると、権利者は、民事訴訟を起こすかも知れません。そうなると、民事訴訟としての弁護士費用がかかるかも知れません。少なくとも、権利者側ではなく、ダウンロード者の側の弁護士費用は、かかります。また、刑事事件化されてしまうかも知れません。そうなると、刑事事件としての弁護士費用もかかるかも知れません。

もちろん、解決までに時間がかかり、人によっては精神的にしんどくなるでしょう。

つまり、損害賠償額自体は、2~10万円に抑えられるとしても、その他の支出やデメリットが生じる可能性があります。

ここまで踏まえて検討する必要があります。

そのため、権利者の側も、上記東京高裁よりは高いが、もろもろの費用や解決までの長期化による精神的苦痛を考えると我慢できなくもない額を提示しているように感じます。

ということで、BitTorrentに関する損害賠償額につき、東京高裁判決があるにはあるが、そのまま用いるか否かは要検討というお話でした。