ハンコについて本気出して考えてみた1~ハンコの法的意味~

これまで、私は、「契約書を作りましょう。」「契約書が大事です。」と申し上げてきました。
ある日、「契約書が大事であることは分かりました。早速、契約書を作ろうと思います。契約書にはハンコを捺してもらった方が良いのでしょうか?」という質問をいただきました。

そこで、ハンコについて本気出して考えてみたいと思います。

そもそも、ご自身が契約書を作る際に、ご自身のお名前と相手方のお名前を入れることが一般的です。どちらかの名前を欠く契約書は、ほとんど見ません。

ご自身のお名前と相手方のお名前が入っていれば、誰が誰と契約したかは分かるはずです。それなのに、なぜ、ハンコまで必要なのでしょうか。

この疑問に答えるにあたり、皆様に想像していただきたいと思います。

「私ことAは、B様から、100万円をお借りしました。」という借用書を想像してください。この借用書が全文ワープロ打ちで、しかもハンコがなかったらどうでしょうか。

「本当にAさんが作ったのだろうか?」「Bさんが勝手に作ったのでは?」と思いたくなりませんか?

では、この借用書に、Aさんのハンコがあったらどうでしょうか。たちどころに、「ハンコがあるのだから、まあ、Aさんが作ったんだろうな」くらいには思えるようになると思います。

このように、ハンコには、「この書類は、本人が作ったのだろう」と思わせる効果があります。

実は、法律でも、ほとんど同じことが規定されています。

民事訴訟法第二百二十八条  私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。

「本人……の押印があるときは、真正に成立したものと推定する」とあります。

要するに、本人がハンコを捺していれば、「真正に成立したもの」だろうと思ってもらえるということです。

なお、ここでいう「真正に成立」とは、「間違いなく本人が作成した」という意味でしかありません(法律用語でいえば「形式的証明力」です。)。

「内容に誤りがない。」という意味ではありませんので、ご注意ください。


たとえば、Cさんが、「私は、UFOを見たことがあります。」という文書を作り、Cさんのハンコを捺したとしても、「UFOの存在に誤りがないだろう。」と思ってもらえるわけではないですよね。

もちろん、「Cさんが『私は、UFOを見たことがあります。』という眉唾物の文章を作成した。」だろうという意味にはなります。

さて、民事訴訟法228条4項では、「署名または押印」とあります。

そのため、「署名で足りるのであれば、ハンコなんていらないのでは?」とお考えになった方もいらっしゃるでしょう。

しかし、署名とハンコでは、少し異なります。どのように異なるのかを、次回ご説明いたします。