事業所得と養育費の関係2~算定表ができた経緯~
さて、前回は、かなり長くで複雑な文章を書いてしまいました。
ただ、前回をあっさりまとめると、以下のとおりです。
養育費とは、以下の手順で計算するのが原則である。
①義務者の基礎収入(総収入-今の生活レベルを維持していくのに必要な経費)を算定する。
②基礎収入を、義務者と子で傾斜をつけて配分する。
③子に配分された金額について、義務者の基礎収入と権利者の基礎収入で按分する。
それでは、前回は敢えて避けた基礎収入の算定方法について御説明しましょう。
まず、養育費を支払う側(親権者ではない側)の総収入を求めます。
給与所得者の方は、総支給額(税込み収入)を総収入とします。
事業所得者の方はどうでしょうか。給与所得者の総収入が総支給額であれば、何となく事業所得者の方は売上が総収入となるような気もします。ただ、事業所得者では、売上2000万円・経費1900万円という方もいらっしゃれば、売上1000万円・経費200万円という方もいらっしゃいます。
つまり、売上は、その方の経済力とはあまり直結していないのです。
そのため、やはり給与所得者の総支給額と、事業所得者の売上を同列に論じることはできません。
そこで、事業所得者の方は、課税される所得額+αが、養育費を考える際の総収入とされます。
この「+α」については、後日、御説明します。
ただ、総収入が全額、生活費に回せるわけがないことは当然です。
まず、総収入から公租公課(税金など)を支払わねばなりません。
次に、職業費(給与所得者として就労するために必要な経費)もかかります。たとえば、服や靴・通信費(電話代など)・本・交通費・諸雑費・交際費がかかります。ちなみに、事業所得しかない場合には、基礎収入の計算においてにおいて既に経費が引かれています(事業所得者は、基礎収入の計算において、課税される所得額+αを使うためです。後日、お話します。)。そのため、事業所得者の場合には、職業費は考慮しません。
さらに特別経費もかかります。特別経費とは「家計の中でも弾力性・伸縮性に乏しく、自己の意思で変更することが容易ではなく、生活様式を相当変更させなければその額を変えることができない費用」と定義されます。
この定義では意味不明なので、具体例を挙げます。特別経費の具体例としては、「住宅関係費」(家賃や住宅ローン等)、「医療費」「保険掛金」が挙げられます。なお、あくまで義務者にとっての特別経費なので、子の学費などは、特別経費にあたりません。
算定表ができる前は、公租公課はもちろん、職業費や特別経費も、離婚前の生活費の支出状況を調査官などが調査して、実際の支出を元に計算していたそうです。ただ、私が弁護士になった時には、既に昔の算定表がありましたので、実際の支出を元に計算するというのがどれくらい大変なことかを体験したことはありません。
しかし、想像しただけで、かなり大変であることは、想像がつきます。もちろん、時間もかかったでしょう。
養育費とは、生活費です。「丁寧に計算して正確な金額を出してほしい。」と思う方もいらっしゃるでしょうが、「生活のため、多少、大雑把でも良いので、できる限り早く養育費がほしい。」と考える方もいらっしゃいます。
ということで、迅速に養育費を計算する要望に応じる形でできたのが算定表です。
ただし、算定表は、養育費の実例を集計して作ったわけではありません。
総収入から公租公課・職業費・特別経費を引いて基礎収入を求め、義務者と子で配分したうえで、義務者と権利者とで按分するという大原則は崩していないのです。
では、どうやって、公租公課・職業費・特別経費を考慮したのでしょうか。
それは、統計資料から考慮したとのことです。
具体的な考慮方法は、「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」(以下「実証的研究」といいます。)に譲ります。
ただ、大雑把にいえば、統計的な平均の数字から公租公課・職業費・特別経費を計算しています。
ここまで申し上げると
「公租公課は総収入に応じて税率が変わるのではないか。」
「職業費・特別経費は、総収入があがると、相対的に占める割合は減るのではないか。」
という疑問を持たれた方も多いでしょう。もちろん、そのとおりです。
そのため、実証的研究では、総収入に応じて公租公課・職業費・特別経費の割合が変化することを踏まえ、基礎収入の割合も、総収入によって変わる旨を示しています(実証的研究p35)。
つまり、算定表も、総収入に応じてちゃんと変化させているのです。
算定表がきれいな直線ではなく、曲線を描いているのは、そのためでしょう。
今回までは、給与所得にも事業所得にも当てはまることでした。
次回こそは、事業所得特有のお話ができるよう、頑張ります。