民法改正講義案4(売買8)-契約後、引渡前に消失したら?-
8 旧法のような危険負担債権者主義は廃止
【第536条】
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
(1)ひとこと解説
契約後引渡前に目的物が消失した場合において、その消失につき売主買主の双方に落ち度がない場合、買主は売買代金を支払う必要がありません。
(2)詳細解説
特定物(その物の個性に注目したもの)であろうとなかろうと、引渡前に目的物が消失した場合において、当事者双方に帰責性がない場合には、債権者は、代金を支払わなくてよいことになりました。旧法では、特定物売買の場合、契約成立時から債権者が危険負担をすることになっていたのです。
もちろん、この条文がなくても、売主の履行不能状態なので、買主は解除ができます。解除をすれば、買主は代金支払義務を免れます。しかし、逆にいうと、解除しない限り、契約が有効なので、売主は買主に代金請求できてしまいます。そのような場合に備えて、このような条文があるのです。
要するに、買主に落ち度がないままに物が消失した場合、買主は、契約を放置しても出費を求められないということです。
(3)例
2030年1月31日、売主は、静岡市において、東京の一戸建てを、買主に対し、1億円で売買する契約をしたとします。引渡し(鍵の受け渡しなど)は、2030年2月14日とされました。しかし、2030年2月7日、第三者の放火により、東京の一戸建ては全焼しました。
旧法では、契約後に目的物が消失した以上、買主は代金を支払う義務を負うことになっていました(買主の方で、保険を掛けるなり、放火魔に損害賠償請求しなければならないということです。)。
しかし、新法では、引き渡し前である以上、買主は代金支払義務を負わないことになりました。