民法改正講義案7(意思表示3)

3 動機の錯誤にも条文が

【第九十五条】
1意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

(1)ひとこと解説

動機の錯誤についても、条文ができました。

(2)詳細解説

これまで錯誤の話をしてきました。しかし、現実としては、言い間違い・書き間違いは多くありません。むしろ多いのは、契約書作成に至るまでの過程に錯誤がある場合なのです。

たとえば、Aさんは、甲土地に鉄道が通るという噂を聞き、鉄道が通るなら何倍もの価格で売れると踏みました。そこで、Aさんは、甲さんに「甲土地を1億円で買いたい」という買付申込書を提出し、Bさんは甲土地の売却に応じました。しかし、甲土地に鉄道が通るという噂は、全くのガセネタでした。

……という例を考えてみましょう。Aさんの内心は、「甲土地」「1億円」であり、買付申込書もそのとおりになっています。したがって、表示も内心と同じです。表示も内心も同じなら錯誤ではありません。しかし、言い間違い・書き間違いよりもずっとありえそうな話だとは思いませんか?

そのため、こういう場合も、取り消して良いのではないかという話が出てきたのです。そして、最高裁でも認められるに至りました。その、最高裁の考えを条文化したのが、95条1項2号です。

「法律行為」というのは、「契約」くらいに考えてください。契約の際の基礎事情に錯誤があれば、取り消せるのです。

先ほどのAさんについて考えましょう。Aさんは、「鉄道が通る」という事情をもとに甲土地を買いたいと思うようになりました。つまり、「甲土地に鉄道が通る」というのが「基礎事情」です。この基礎事情についてAさんは錯誤になっていたのですから、取り消せそうです。

しかし、2項を見てください。「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り」とあります。つまり、基礎事情を相手方(Bさん)に表示していなければなりません。たとえば、買付申込書の中に、「甲土地に鉄道が通ると聞いたので買いたい」という記載が必要です。

今回のAさんの買付申込書には、そのような記載はありませんでした。

したがって、残念ながらAさんは取り消すことができません。つまり、鉄道も通らない甲土地を1億円出して買わねばならないのです。

 

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