ハンコについて本気出して考えてみた10~そもそも契約書とは?~

そもそも、ハンコについて本気出して考えてきたのは、契約書の重要性が発端でした。

では、改めて、契約書とは何かについても本気出して考えてみましょう。
契約書とは何でしょうか。いろんな表現方法があると思いますが、私は、「契約当事者間のみ適用する法律を立証するもの」と表現いたします。

実は、物凄く大雑把に申し上げると、私人と私人の間では、どんな取り決めをしても自由なのが原則です。「自由」というのは、「法律の定めを無視して決めても構わない。」という意味です。
つまり、優先順位は、契約が1番で、法律は2番というのが原則です。

たとえば、民法447条1項では、保証人の義務は、元本のみならず利息にまで及ぶと決められています。

第四百四十七条 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。

しかし、お互いが納得して、「保証人の義務は元本のみとする。利息は含まない。」という契約を結ぶことは自由です。

このように、契約は法律よりも効力が強いのが原則です。私人が対等な立場で、自由に契約を結んで経済活動をする方が、より豊かになるだろうという考え方からです(法律用語では「私的自治の原則」といいます。)。
そして、法律よりも強い効力を発生させる証拠となるのが契約書という訳です。

ただ、何度も「原則」と申し上げているように、もちろん、例外もあります。
たとえば、最低賃金です。いくら、会社と労働者が納得したからといって、時給500円という契約を結んでも、最低賃金法違反で無効です。労働力は貯めておけないため、どうしても労働者側が弱い立場におかれます。そのため、会社と労働者は対等な立場とはいえません。給与交渉の場合にまで、自由な契約を認めてしまっては、従業員は働いても貧しくなるだけです。そこで、例外的に、契約よりも法律を優先するわけです。

この記事を読んでくださっている皆様は、むしろ例外の方が頭に多く浮かんでいらっしゃるかも知れません。ただ、あくまで原則は、契約優先なのです。そして、契約書とは、法律よりも優先する内容を取り決めたことを立証する大事な書類です。

契約書を作成するということは、「自分に有利な取り決めを作り出すかも知れないし、相手に有利な取り決めを作り出すかも知れない。」と思ってください。

というのも、時々、「契約書があっても常に法律が優先する。」と考えていらっしゃるのではないかと思われる方に出会うからです。

弊事務所では、10分の電話無料相談を行っています(令和6年4月9日現在)。その中で、「○○という契約を結ばされているのですが、法律上どうなっていますか?」という相談をされる方がいらっしゃいます。


これまで述べてきたように、法律よりも契約が優先です。そのため、まず契約書を拝見し、契約書の中で相談者様の希望に叶うような条文があるかどうかを調べる必要があります。逆に、相談者様の御希望にそぐわない条文が発見されてしまった場合、その条文が、最低賃金法のような、契約よりも優先する法律に違反していないかを調べます。
もし、契約よりも優先する法律に違反していなければ、契約は完全に有効ということになります。

そのため、お電話では「○○という契約を結ばされているのですが、法律上どうなっていますか?」という御質問に回答はできないのです。
以上の内容をかいつまんでご説明しても、ご納得いただける方と、ご納得いただけない方は半々くらいの印象です。

ご納得いただけない方の中には、契約書を全文読み上げようとされる方もいらっしゃいます。しかし、契約書は僅かな単語で意味が変わることも多いです。そのため、読み間違いのリスクがある以上、全文を読み上げての御相談には応じることもできません。

長くなりましたので、次回に続きます。