ハンコについて本気出して考えてみた4~実印はもちろん……~

さて、前回までで、「本人が所有するハンコの印影であれば、本人が捺しただろうと思ってもらえる。本人が捺しただろうと思ってもらえるということは、文書も本人が作っただろうと思ってもらえる。」というお話をしました。

そして、「本人が所有するハンコ」とは何だろうという点につき、ちょっと含みを持たせた形で、前回を締めさせていただきました。

では、「本人が所有するハンコ」とは何でしょうか。お察しのとおり、実印は含まれます。また、法人でいえば、法務局に届け出たハンコも含みます。

ただ、ご注意いただきたいのは、実印だけではないということです。

最高裁の昭和50年6月12日判決でも、「印鑑登録をされている実印のみをさすものではない。」と断言されています。

たとえば、実印ではないとしても、銀行登録印が「本人が所有するハンコ」として認められた例があります(大阪高判平成17年2月3日)。

また、私の経験上、たとえ、実印でもなく、銀行登録印でないとしても、何回か取引に使っているハンコだと、「本人が所有するハンコ」として認められることがあります。

ということで、実印以外でも、「本人が所有するハンコ」と認められる可能性はあるというお話でした。

ところで、「本人が所有するハンコの印影であれば、本人が捺しただろうと思ってもらえる。本人が捺しただろうと思ってもらえるということは、文書も本人が作っただろうと思ってもらえる。」というように、「だろう」を多用していることにお気づきだったでしょうか。

実は、本人が所有するハンコと認められても、あくまで「だろう」に過ぎません。法律用語でいうところの「推定」に過ぎません。民事訴訟法228条4項も「推定」という表現を使っています。

「だろう」(「推定」)ということは、確定ではないということです。たとえば、「実は、本人が所有するハンコではない」とか、「本人が所有するハンコではあるが、勝手に使われたものであり、本人が捺したわけではない」ということが立証できれば、「だろう」が覆ることもあります。

では、どのような場合に覆るのかを、次回見ていきましょう。