民事IT裁判FAQ4~IT裁判での和解方法は?~
※本ページは、民訴法改正により陳腐化しました。最新の情報はFAQ22をご覧ください。
以下の記載は、過去の手続例としてご確認ください
Q IT裁判では、和解に一工夫が必要というのは、どういう意味ですか?
A 書面による準備手続きでは、和解ができないとされています。そこで、一旦、調停に付すなどの一工夫が必要という意味です。
Q 調停ということは、17条決定ですか?
A 17条決定を使わずに、和解することが多いようです。
Q 裁定和解ならば、調停に付さなくても和解できるのでは?
A 裁定和解は、意外と面倒なので、使わないことが多いようです。
【解説】
なんと、書面による準備手続としては、和解ができません。
そこで、和解をするには、一工夫が必要なのです。結論から申し上げますと、調停に付したうえで、和解をするという方法が多く採られているようです。
訴訟における和解については、条文上の明示はないものの、原告被告双方が出頭して行うのが原則とされています(「民事訴訟法講義案」)。
弁論準備については、民訴法170条4項で「出頭したものとみなす。」という規定があります。そのため、実際には、片方しか出頭していなくても、原告・被告双方が出頭したものとみなされて、和解ができるのです。
しかし、書面による準備手続には、そのような条文がありません。したがって、双方出頭したとはいえないので、訴訟としては和解ができないのです。
そこで、用いられているのは付調停(民事調停法20条)です。
調停というと、簡裁というイメージが強いです。しかし、付調停の場合には、自庁で処理が可能です(民事調停法20条1項本文)。
そして、調停の成立方法については、「調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものと(する)」(民事調停法16条)しか書いていません。つまり、必ずしも原告・被告が出頭しなくともよいということになります。
この条文を適用するために、訴訟であっても、一旦、調停に付したうえで、和解成立となります。
なお、調停に付される際に、別途、印紙や郵券を納める必要はありません。ご安心ください。
ここまで申し上げると、「なるほど、17条決定を使うのですね。」とおっしゃる先生がいらっしゃるかも知れません。
もちろん、17条決定を使おうと思えば使えます。
民事調停法第十七条 裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合において相当であると認めるときは、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴き、当事者双方のために衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができる。この決定においては、金銭の支払、物の引渡しその他の財産上の給付を命ずることができる。
しかし、民事調停法16条で、かなり緩やかな要件で和解ができることになっているので、17条決定をせず、普通に和解することが多いです。
また、17条決定では、一応、異議申し立て期間があるので(民事調停法18条1項)、即時に終局的な解決にならない点は、普通の和解に比べてイマイチといえます。
ということで、敢えて17条決定は使わず、民事調停法16条に基づいて和解することが多いようです。
ここで、「裁定和解」(民訴法265条)を使えば、調停に付さなくても良いではないかというご指摘があるでしょう。
第二百六十五条 裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。
2 前項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。
3 第一項の規定による和解条項の定めは、口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。
4 当事者は、前項の告知前に限り、第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。
5 第三項の告知が当事者双方にされたときは、当事者間に和解が調ったものとみなす。
確かに、裁定和解を用いれば、わざわざ調停に付さなくても訴訟のままで和解できます。「その他相当と認める方法による告知」で良いとされているので、もちろん、IT裁判で告知することも可能です。
しかし、「書面」による「共同の申立て」が、ネックなのです。
書面による共同の申立てというと、どのような形を想像されるでしょうか。
私は、原告被告が、同一書面に、連名で申し立てをする形を想像します。
そうなると、まず、原告側弁護士が書面を準備して記載し、それを被告側弁護士に郵送し、被告側弁護士が裁判所に提出するということになります。
2回の郵送を挟むため、結構時間がかかります。
なお、訴訟を完結する書面にあたるので、民訴規則3条1項2号に基づき、FAXは使えないと考えます(使えるという説も根強いようです。)。
そこで、必ずしも原告と被告が連名でなくても良いとする解釈をする裁判官もいらっしゃるようです。
つまり、原告は原告で申立をし、被告は被告で申立をするわけです。同時期に申し立てるなら「共同の申立て」と解釈するということでしょう。
確かに、これだと手間はだいぶ省けます。
しかし、やっぱりFAXは使えないので、和解成立までに数日かかってしまいます。
そこで、IT裁判中に和解成立しそうになったら、とりあえずFAXで申立書を送付して、事実上和解をし、原本が郵送された段階で電話等で告知をして正式に和解成立とする運用も考えられたようです。
しかし、これはあまりにも技巧的であるためか、付調停の方を選ぶ裁判官が多いようです。
ということで、IT裁判での和解は、付調停にして普通に和解をすることが多いという話でした。