個人情報の利用について

さて、前回までで、個人情報の取得についてお話しました。取得した個人情報は利用しなければ意味がありません。
ということで、本日は、個人情報の利用についてお話いたします。

もちろん、利用目的に沿っていれば、個人情報を利用することができます(個人情報保護法16条1項反対解釈)。

第十六条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。

また、仮に利用目的に沿わないとしても、別途、本人の同意を得れば、個人情報を利用することができます(個人情報保護法16条1項反対解釈) 。

ただ、突発的なことが起きたらどうでしょうか。

たとえば、皆様が予約制のレストランを経営しているとします。皆様は、予約を受ける際、お客様の名前と連絡先を確認しています。
そして、予約して来店してくださったお客様が急に倒れて、意識を失い、救急車を呼ぶことになったとしましょう。
皆様が、救急隊員に「この方のお名前や連絡先を知っていますか?」と聞かれた際、倒れたお客様の名前や連絡先を救急隊員に伝えても良いのでしょうか。

予約の際に、個人情報の利用目的を明示しているとしても、せいぜい「予約日時の確認のため」「メニューの確認のため」「広告効果測定のため」くらいの明示に留まると思われます。
「万一、救急搬送された際に、救急隊員に伝えるため。」という目的を明示していることは少ないでしょう。

では、皆様は、倒れたお客様の個人情報を救急隊員に告げることができないでしょうか。
そんなことはありません。このような条文があります。

第十六条
3 前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

個人情報保護法16条3項2号で、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」とあります。
救急隊員に名前や連絡先を告げることは、「身体の保護のために必要がある場合」といえます。
したがって、皆様は、倒れたお客様の名前や連絡先を救急隊員に告げても良いのです。

ちなみに、「今の例は、『提供』ではないのか?」と思われた方も多いと思います。
そうです。「利用」と「提供」は、区別がつきづらいので、条文もよく似ています。

第二十三条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
 法令に基づく場合
 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

「似ている」というよりは、「ほぼ同じ」と言っても良いかも知れませんね(「個人データ」は、イメージとしては「個人情報」と同じものだと思ってください。)。

いずれにせよ、利用や提供をする際には、個人情報保護法16条や23条をご確認いただきたいという意味です。「利用」なのか「提供」なのかで、悩む場面はそれほどないようにできているのです。

ところで、個人情報保護法16条や23条では、「法令に基づく場合」に利用や提供ができるとされています。たとえば、警察の捜査関係事項照会に応じる場合とか、弁護士会照会に応じる場合などがあたります。
弁護士会自体は民間扱いなためか、「弁護士会照会に回答して個人情報保護法違反にならないでしょうか?」という質問をいただくことがあります。しかし、弁護士会照会は、弁護士法23条の2で認められた「法令に基づく」照会なので、回答しても、個人情報保護法違反にはなりません。ご安心ください。

つまり、救急搬送のような突発的な事態でなくても、法令上の根拠があれば、目的外利用も、第三者提供も可能ということです。
そして、「法令」の範囲は、意外と広いです。もし、「利用」「提供」で迷ったら、根拠となる法令を探し、もし、見つからなければ弁護士にご相談ください。