離婚調停などでも秘匿決定申立は可能

以前、訴訟においては、氏名や住所を秘匿する「秘匿決定申立」や、氏名や住所を推知されそうな書面を秘匿する「閲覧等制限申立」が可能であることをお話しました。

しかし、秘匿決定は訴訟だけで十分でしょうか。たとえば、DVで離婚を検討されている方がいらっしゃるとします。現在の法律では、離婚訴訟を起こす前に、離婚調停を申し立てることが原則になっています。

つまり、離婚調停でも、秘匿決定申立の需要はあるということになります。

そのため、離婚調停などの家事調停でも、令和5年2月20日以降は、秘匿決定申立が可能ということになっています。

家事事件手続法第三十八条の二 家事事件の手続における申立て等については、民事訴訟法第百三十三条、第百三十三条の二第一項並びに第百三十三条の四第一項から第三項まで、第四項(第一号に係る部分に限る。)及び第五項から第七項までの規定を準用する。(※以下省略)

家事事件手続法とは、家事調停に関する法律です。家事事件手続法38条の2でいう「民事訴訟法133条」というのが、秘匿決定申立の条文です。

したがって、家事事件手続法でも、秘匿決定申立が可能ということになります。

では、閲覧等制限申立はどうでしょうか。実は、家事事件手続法38条の2では、閲覧等制限申立の条文を引用していません。したがって、家事調停では、閲覧等制限申立はできないのです。

ただし、このような規定になっているのは、別の制度が既に存在しているからです。決して、家事調停であれば閲覧し放題になるという意味ではありません。

家事事件手続法第四十七条

第1項 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、家庭裁判所の許可を得て、裁判所書記官に対し、家事審判事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は家事審判事件に関する事項の証明書の交付(第二百八十九条第六項において「記録の閲覧等」という。)を請求することができる。

第4項 家庭裁判所は、事件の関係人である未成年者の利益を害するおそれ、当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害するおそれ又は当事者若しくは第三者の私生活についての重大な秘密が明らかにされることにより、その者が社会生活を営むのに著しい支障を生じ、若しくはその者の名誉を著しく害するおそれがあると認められるときは、前項の規定にかかわらず、同項の申立てを許可しないことができる。事件の性質、審理の状況、記録の内容等に照らして当該当事者に同項の申立てを許可することを不適当とする特別の事情があると認められるときも、同様とする。

もともと、離婚調停などの家事調停においては、書面の閲覧自体が許可制だったのです。そして、令和5年2月20日以降も、もちろん許可制です。

したがって、閲覧等制限をかけたい場合には、裁判所に対し「閲覧を許可しないでほしい」と申し出をすればよいことになります。「非開示の申出」などと呼ばれていると聞いております。

よって、離婚調停などの家事調停においては、わざわざ閲覧等制限の制度を作るまでもなく、もとからある制度を活用すれば足りると考えられたために、閲覧等制限の制度は採用されなかったようです。

また、裁判所にもマスキングした書面を示せば足りると思った場合、訴訟の場合と同様、何らの申立・申し出をせずに、マスキングをした書面を裁判所と相手方に示すことも違法ではありません。

ということで、離婚調停などの家事調停においても、秘匿決定申立はできるし、閲覧等制限の制度に近いような制度はあるというお話でした。

なお、ここまで申し上げると、「では、民事調停はどうなんだろう?」と興味が沸いた方もいらっしゃるかも知れません。民事調停については、秘匿決定申立も閲覧等制限も準用されています。したがって、秘匿決定申立も、閲覧等制限の制度もあるということになります。

民事調停法第二十一条の二 調停手続における申立てその他の申述については、民事訴訟法第一編第八章の規定を準用する。(※以下省略)

「民事訴訟法第一編第八章」というのが、秘匿決定申立や閲覧等制限の条文です。民事調停法には、家事事件手続法47条のような許可の条文がないので、制度を新設する必要があるということなのだと思います。