動画制作者に伝えたい著作権の話3~著作権契約はややこしい~

今回は、トラブルの例②「複数人で動画を作っていたところ、解散することになった。そのため、収益の分配で揉めた。」について申し上げます。
ただ、これでは抽象的すぎるので、もう少し細かい事例を考えてみましょう。

以下のような架空の事例を想定してください。

ABCの三人が、動画を作って広告料収入を得ようと考えた。
Aは作画を担当し、Bはシナリオを担当し、Cは作曲を担当した。
特に契約書は作らず、収入は頭割りするという口頭の合意だけがあった。
動画は完成し、再生回数は伸び、広告料収入を得られるまでに至った。
しかし、AとBCの仲が悪化した。
AはBCに対し、「動画に自分が作った画像を使うな。
使うのであれば、画像の著作権を1000万円で買い取れ。」と要求した。

いかがでしょうか。
この場合、BCはどうすれば良いのでしょうか……と言いたいところですが、
実は、どうしようもありません。

つまり、
Ⅰ Aの要求を飲むか、
Ⅱ Aが作画した画像部分を、別の画像に差し替える。
くらいしか打つ手はありません。

では、どうすれば「良かった」のでしょうか。
こちらは、明快です。
事前に、著作権全般に関して、契約書を作成しておけばよかったということになります。

では、どのような契約書を作ればよかったのでしょうか。
普通に考えると、「ACは、著作権をBに譲渡する。Bは、ACに対し、それぞれ、収益の〇%を支払う。」などとすれば良いようにも思えます。

しかし、この文言では、重大なリスクを孕みます。以下、ご説明いたします。

ものすごく大雑把にいって、著作者の権利には、著作財産権(狭義の著作権)と、
著作人格権(同一性保持権など)があります。

そして、単に「著作権」といった場合、「著作人格権」は含まないと解釈されるのが一般的です。
しかも、「著作人格権」は、そもそも譲渡できないとされています。

つまり、「ACは、著作権をBに譲渡する。Bは、ACに対し、それぞれ、収益の〇%を支払う。」では、
Aに著作人格権を行使されるリスクがあります。

では、著作人格権を行使されるとどうなるのでしょうか。

著作人格権の主なものとして、氏名表示権と同一性保持権があります。

氏名表示権は、文字どおり、氏名を表示する権利なので、動画のどこかにAの名前を記せば足りることが多いと考えられます。
氏名表示権を行使されても、それほど負担はないでしょう。   

しかし、同一性保持権は強力です。同一性保持権とは、一切の改変を認めない権利のことです。
つまり、著作権を譲渡してもらえば、Bは、Aの画像を使うこと自体は認められます。
ただし、同一性保持権を行使されると、Aは、「画像の色を一切変えるな」などということができるようになるのです。
これは、動画作成にとって、かなり厳しいことになるでしょう。

したがって、著作権に絡む事柄で契約書を結ぶときは、著作権のみならず、著作人格権の不行使を盛り込む必要があるのです。

ここで「何故『不行使』?譲渡ではいけないの?」という疑問を持たれた方も多いでしょう。
先ほど、さらっと触れたとおり、著作人格権は、譲渡できないことになっています。
そこで、著作人格権を持ちつつも、著作人格権を行使しないことを約束してもらうことにより、
不都合を避けるというのが一般的です。
もし、「なんだかややこしいな~」と思われたら、弁護士に御相談ください。