民法改正講義案5(保証4)ー公正証書が不要な場合とは?-

前回、個人が、事業資金の保証をする際には、公正証書が必要と申し上げました。しかし、一定の場合には、公正証書が不要になる場合があるのです。

4 一定の人的関係にある者については、公正証書不要

【第465条の9】
前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
二 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者
ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合におけるイ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者
三 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
(1)ひとこと解説

会社の経営者やオーナー、会社経営者の配偶者が、会社の保証人になる場合には、公正証書は不要です。

(2)詳細解説

法律上、株式会社などの法人と、個人は別扱いです。たとえば、Aさんが、「A株式会社」を設立し、A株式会社の株式の100%を持っていたとしても、Aさんと、A株式会社は、別人扱いとされます。

すると、A株式会社が、銀行からお金を借りる際、Aさん個人が保証人になろうとしたらどうでしょうか。AさんとA株式会社は別人扱いです。そうすると、Aさんは、あくまで個人なので、「個人が、事業資金の保証をする場合」にあたってしまいます。しかし、A株式会社は、実質的にはAさんのものなので、Aさんは、保証のリスクを十分理解しています。リスクを十分理解しているならば、時間とお金をかけて、公証人の話を聞く必要はありません。そこで、このようなAさんの場合には、465条の9によって、公正証書が不要とされたのです。

なお、「三」をご覧ください。「主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者」とあります。これは、個人事業主の配偶者が、個人事業の保証人になる場合も、公正証書は不要ということが書かれています。

たとえば、Bさんが、コンビニのオーナーになろうと思い、多額の借金をしました。その際、Bさんの奥さんが、保証人になろうと思ったとします。本来であれば、「個人が、事業資金の保証をする場合」にあたるのですが、「三」によって、不要とされるのです。