【判例速報】知財高裁・越境EC通関システム特許の発明該当性、商標「たべるん」不使用取消ほか計3件(2026年8月5日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、実務上重要な3件(うちインターネット関連2件)を取り上げます。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日〜今日に公開された分」を厳密に特定することはできません。本記事は、裁判所ウェブサイトの新着一覧(下級裁判所(速報)・新着統合一覧・知的財産裁判例集)に掲載されているもののうち、当サイトの過去の速報で未報告のものを対象としています。なお、下級裁判所(速報)新着一覧には、本日新たに令和8年7月16日判決(鹿児島地裁)が追加されていました。


1. 知財高裁・越境EC「事前通関」システム特許の発明該当性と進歩性

知的財産高等裁判所第4部/令和8年7月15日判決/令和7(行ケ)10028/審決取消請求事件/権利種別:特許権 ★インターネット関連
判示事項:発明該当性、進歩性(相違点の認定、相違点の判断)/対象発明:商取引システム、管理サーバおよびプログラム(特許第6047679号)

事案の概要

原告アリババ株式会社が、被告株式会社BWBの特許について無効審判を請求したものの不成立審決を受け、その取消しを求めた事案です。本件発明(請求項8)は、商品情報を含む登録要求を受信し、通関認証装置に送信して事前通関情報を取得し、ユーザ端末がアクセスするサイトに掲載できるよう商取引装置に通知するプログラムで、越境電子商取引において商品購入前に事前通関処理を行うものです。

判断の要旨

請求棄却。①発明該当性について、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているとして「自然法則を利用した技術的思想の創作」に当たると判断し、原告の「単なる事務作業にすぎない」との主張を排斥しました。②進歩性について、引用発明(特開2001-142986号公報)との相違点3(通関認証装置が存在し事前通関情報を生成する点)に関し、引用発明のサーバは単なるデータベース・サーバで通関の認証機能を有しないとして、「形式的相違にすぎない」との原告主張を排斥し、進歩性を肯定しました。

実務上のポイント

  • 越境EC・決済・物流系のシステム特許について、「事務作業の自動化にすぎない」との無効主張が排斥された事例です。
  • ソフトウェア発明の発明該当性(特許法2条1項)は、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されているかで判断されるという枠組みが、通関業務という業務プロセス寄りの発明についても維持されています。ネット系サービスの特許戦略および無効主張の組立てに直結します。

※詳細ページの「裁判要旨」「参照法条」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。
※同日言渡しの知財高裁第4部・令和6(ネ)10081(当サイト2026年7月29日速報で既報)とは当事者・分野が重なりますが、両事件の関係は原典未確認です。

出典:裁判例詳細(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


2. 知財高裁・ウェブサイト上のキャラクター表示と商標法50条の「使用」(「たべるん」)

知的財産高等裁判所第2部/令和8年6月29日判決/令和8(行ケ)10009/審決取消請求事件/権利種別:商標権 ★インターネット関連

事案の概要

原告イートウェル株式会社が、被告東都生活協同組合の登録商標「たべるん」(登録第5741277号)について、商標法50条に基づく不使用取消審判を請求した事案です。要証期間(令和3年12月17日〜令和6年12月16日)における使用の有無が争われました。

判断の要旨

請求棄却(使用を認定)。裁判所は、商標法50条2項にいう「使用」について、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識し得る態様」までは要せず、指定商品・指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りると判示しました。その上で、被告ウェブサイトの「「わたしのこだわり」調査隊。」企画において、「たべるん」を含む3体のキャラクター「るんるんズ」が飲食料品小売業務のQ&A形式の広告に用いられていたことを、商標法2条3項8号(役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為)に該当すると認定しました。

実務上のポイント

  • 自社ウェブサイト上のキャラクター表示が、不使用取消審判における「使用」の証拠となり得ることを正面から認めた事例です。
  • いわゆる商標的使用(出所識別機能を発揮する態様)に限定しない立場を明示している点が実務上重要で、ウェブ上の表示が主たる使用証拠となるネットサービス事業者の商標維持・防御に直結します。
  • 逆に、不使用取消を請求する側としては、相手方ウェブサイト上の表示の網羅的な調査・保全が不可欠となります。

※詳細ページの「裁判要旨」「参照法条」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。

出典:裁判例詳細(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


3. 鹿児島地裁・認定こども園の保育士による園児への殺人未遂・傷害

鹿児島地方裁判所刑事部/令和8年7月16日判決/令和6(わ)138、154号/殺人未遂、傷害被告事件

事案の概要

認定こども園に勤務する保育士であった被告人が、令和6年6月3日に園児B(1歳)の鼻部を殴打して打撲傷を負わせ、同月7日に園児A(2歳)の右頚部をカッターナイフで切創したとされる事案です。

判断の要旨

懲役10年(未決勾留日数中200日を算入)。主な争点は園児Aに対する殺意の有無でした。被告人側は「肩付近を傷つけようとしたが手の震えで首に当たった」と主張しましたが、裁判所は法医学的証言から、創傷が始めから一定の深さで刃を押し込んだまま引いた態様であると認定し、狙ったとする部位との位置のずれが大きすぎるとして供述を排斥。頸部の切創は死亡の危険性が高い行為であり、被告人自身もその危険を認識していたとして殺意を認めました。

実務上のポイント

  • 保育施設内での職員による児童加害事案です。刑事弁護のほか、被害児童側の民事上の損害賠償請求(保育士個人の不法行為責任および設置法人の使用者責任・安全配慮義務違反)や、施設側の危機管理・行政対応の検討材料となります。
  • 本判決が裁判員裁判によるものかは判決文上に明記がなく未確認です。

※詳細ページの「判示事項」「裁判要旨」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。

出典:裁判例詳細(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


本日確認したが掲載対象外としたもの

  • 知財高裁 令和8年6月30日 令和8(ネ)10016(特許権侵害行為差止等請求控訴事件・対象発明「箱型船」・控訴棄却):判示事項・裁判要旨とも空欄。インターネット関連性が乏しく、内容は未精査です。裁判例詳細
  • 知財高裁 令和8年6月30日 令和7(行ケ)10041(承継参加申立て事件・進歩性):内容は未精査です。裁判例詳細
  • 新着一覧掲載のその他の刑事事件および選挙無効請求事件等は、インターネット関連性・実務上の重要性の観点から除外しました。
  • 知的財産裁判例集の令和8年7月22日〜7月29日各判決、および最高裁令和8年7月7日・7月10日・7月13日・7月16日各判決は、7月27日〜8月4日の各速報で報告済みのため除外しています。

出典

本記事は裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)に掲載された公式情報に基づいて作成しています。判決文の全文は各出典リンクからご確認ください。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。