身元保証書にサインしてよいか|保証人が負う責任と、上限額・期間の確かめ方を弁護士が解説します

Q 娘の就職が決まり、会社から入社書類と一緒に「身元保証書」が届きました。父親である私が保証人の欄に署名と押印をして、入社日までに返送するよう書かれています。文面には「本人が貴社に損害を与えたときは、本人と連帯して賠償の責任を負います」とありますが、金額や期間はどこにも書かれていません。このまま署名してよいのでしょうか。

A 身元保証人は、本人が会社に与えた損害を賠償する責任を負いますので、署名の前に書面の中身を確かめてください。ただし、個人が保証人となる根保証契約は、賠償の上限額(極度額)を書面で定めなければ効力を生じないと民法が定めており、身元保証はこの根保証契約の例に挙げられています。

身元保証人は、何を約束するのか

身元保証ニ関スル法律1条は、「引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ」、被用者(雇われた本人)の行為によって使用者(会社)が受けた損害を賠償することを約束する契約を、身元保証契約として扱っています。

「身元」という言葉の印象とは違い、本人の人柄や住所を請け合うだけの書面ではありません。たとえば、本人が会社の売上金を持ち出して会社に損害を与えた場合に、その損害の賠償を身元保証人が引き受ける、というお金の責任を伴う約束です。

賠償の上限額(極度額)が書かれているか

民法465条の2第1項は、一定の範囲に属する不特定の債務を保証する契約を「根保証契約」と呼び、保証人が法人でないもの(個人根保証契約)について、保証人は「極度額」を限度として責任を負うと定めています。

そして同条2項は、個人根保証契約は極度額を定めなければその効力を生じないとし、同条3項は、極度額の定めを書面(又は電磁的記録)ですることを求めています。

身元保証は、本人が将来どのような損害を会社に与えるのか、署名の時点では分からないまま引き受ける保証です。国民生活センター発行の『国民生活』2023年11月号の解説も、根保証契約の具体例として「雇用契約の際の身元保証」を挙げています。

この規定は、2020年4月1日から施行されています。法務省の説明資料は、極度額は書面等により当事者間の合意で定める必要があり、「○○円」などと明瞭に定めなければならないとしています。極度額の定めについては、民法改正講義案5(保証1)でも取り上げています。

冒頭のご質問のように、金額がどこにも書かれていない書式であれば、署名する前に、上限額の定めがどこにあるのかを会社に確かめてください。別の書面に書かれているという説明を受けた場合も、その書面を見てから判断してください。

反対に、金額が書かれている場合、その金額は「その額までは請求を受けることがある」という上限です。書かれた金額が大きいほど、保証人の負う危険も大きくなります。

一回の契約で責任を負う期間は、長くても5年です

身元保証ニ関スル法律1条は、期間を定めなかった身元保証契約は、成立の日から3年間効力を有すると定めています(商工業見習者の場合は5年)。

同法2条1項は、期間を定める場合も5年を超えることはできず、それより長い期間を定めたときは5年に短縮するとしています。ただし、同条2項により更新はでき、その場合も更新の時から5年を超えることはできません。

会社には知らせる義務があり、保証人は将来に向かってやめられます

同法3条は、次の場合、会社は遅滞なく身元保証人に通知しなければならないと定めています。

  • 本人に業務上不適任又は不誠実な事跡があり、そのために身元保証人の責任を引き起こすおそれがあると知ったとき(1号)
  • 本人の任務又は任地を変更し、そのために身元保証人の責任が重くなり、又は監督が難しくなるとき(2号)

同法4条は、身元保証人がこの通知を受けたとき、又は自らこれらの事実を知ったときは、将来に向かって契約を解除できると定めています。

損害の全額を支払うとは限りません

同法5条は、裁判所が身元保証人の責任とその金額を定めるにあたり、会社の監督上の過失の有無、身元保証人が保証をするに至った事情とその際の注意の程度、本人の任務や身上の変化、その他一切の事情を考慮すると定めています。

さらに同法6条は、この法律の規定に反する特約で身元保証人に不利益なものは、すべて無効としています。

よくあるご質問

金額の欄を空けたまま署名し、金額は会社に書き込んでもらってもよいですか。

おすすめしません。法務省の説明資料は、極度額は当事者間の合意で定める必要があるとしています。空欄のまま渡すと、いくらまでの責任に合意したのかを、署名した側で確かめられなくなります。

書式に「保証期間は10年間」と書かれています。

身元保証ニ関スル法律2条1項により、5年を超える期間の定めは5年に短縮されます。ただし、期間以外の条項、特に上限額の定めは、別に確かめる必要があります。

本人が転勤することになりました。保証人として何かできますか。

転勤によって身元保証人の責任が重くなり、又は監督が難しくなるときは、会社に通知の義務があります(同法3条2号)。身元保証人は、その通知を受けたとき、又は自ら転勤を知ったときは、将来に向かって契約を解除できます(同法4条)。

要点の整理

  1. 身元保証人は、本人の行為によって会社が受けた損害を賠償する約束をする(身元保証ニ関スル法律1条)。
  2. 個人根保証契約は、極度額を書面で定めなければ効力を生じない(民法465条の2第2項・3項)。身元保証は、根保証契約の例に挙げられている。
  3. 期間の定めがなければ3年、定めても最長5年。更新はできる(同法1条・2条)。
  4. 本人の不適任や任地の変更などの際、会社は保証人に通知する義務を負い、保証人は将来に向かって解除できる(同法3条・4条)。
  5. 裁判所は一切の事情を考慮して責任と金額を定め、保証人に不利な特約は無効となる(同法5条・6条)。

※本記事の条文は、2026年9月16日時点のものです。

身元保証書への署名を求められている方へ

身元保証書は入社書類の一枚として届きますが、上限額として大きな金額が書かれた書式にそのまま署名すると、本人が会社に損害を与えたとき、その金額までは請求を受けうる立場になります。

署名の前に、上限額・期間・賠償の範囲がどう書かれているかを確かめたい方は、契約書・和解書・示談書のサイン前レビューをご利用ください。費用の定めは弁護士費用に掲載しています。

※本記事は一般的な法律解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な事案は弁護士にご相談ください。

身元保証書を返送する前に

金額の欄が空いている。期間が5年より長く書かれている。会社の落ち度を問わず全額を賠償すると書かれている。一つでも気になる点があれば、署名して返送する前にご相談ください。署名する前であれば、上限額や期間の書き方について、会社に確認や修正を申し出ることができます。

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浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。