【判例速報】知財高裁・ネット記事への画像転載と「引用」、特許を受ける権利の帰属(2026年8月4日)
裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、実務上重要な2件(うちインターネット関連1件)を取り上げます。
【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日〜本日に公開された分」を厳密に特定することはできません。本記事は、裁判所ウェブサイトの新着一覧(下級裁判所(速報)・新着統合一覧・知的財産裁判例集)に掲載されているもののうち、裁判年月日が直近(令和8年7月21日以降)で、かつ当サイトの過去の速報で未報告のものを対象としています。なお、下級裁判所(速報)新着一覧の最新掲載は令和8年7月15日判決分であり、直近2週間以内の新規追加はありませんでした。
1. 知財高裁・ネット記事への画像転載と「引用」(著作権法32条1項)/差止めの特定
知的財産高等裁判所第2部/令和8年7月27日判決/令和8(ネ)10012(原審:東京地方裁判所 令和6(ワ)14955)/著作権侵害差止等請求控訴事件/権利種別:著作権 ★インターネット関連
事案の概要
第三者Dが制作したコンピューターグラフィック作品(特定の個人Eを誹謗中傷する内容を含むとされるもの)がX(旧ツイッター)に投稿されたところ、被控訴人が自身のインターネット上のウェブサイトの記事にこれを転載しました。控訴人が、複製権・公衆送信権の侵害を理由に差止め等を求めた事案です。当審では訴えの交換的変更および追加請求がされています。
判断の要旨
控訴棄却。著作権法32条1項の「引用」に当たるとした原判決を維持しました。裁判所は、①引用して利用する著作物と引用されて利用される著作物とを明瞭に区別して認識できること、②両著作物の間に前者が主・後者が従の関係があること、に加え、被控訴人が「DのEに対する誹謗中傷行為を批判する目的」で掲載したことを指摘し、公正な慣行に合致し引用の目的上正当な範囲内であるとしました。控訴人が主張した「被控訴人がDの制作意図を誤認している」旨の点についても、直ちに引用を違法とするものではないとして排斥しています。
他方、当審での訴えの交換的変更後の差止請求(「Eと関連付ける文言を付して複製・自動公衆送信してはならない」旨)については、差し止めるべき対象の態様および対象を具体的に特定するものではなく、「Eと関連付ける文言を付して」との表現も一義的で明確とはいい難いとして、不適法却下としました。追加請求は棄却されています。
実務上のポイント
- ネット上の誹謗中傷を批判・検証する記事において、批判対象の画像・投稿をそのまま転載する行為について、著作権法32条1項の引用の成否を正面から判断した控訴審事例です。
- 明瞭区別性・主従関係に加えて「批判目的」を積極的に評価している点は、削除請求・発信者情報開示請求への反論構成や、批判記事を作成する側への助言に直結します。
- ネット上の表現行為に対する差止請求では、差止対象の特定(どの著作物を、どのような態様で)が不十分だと本案審理に入らず却下されるという実務的教訓が明確に示されています。
※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄はいずれも空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。当事者は、控訴人が法人(判決文上実名記載)、被控訴人は個人(「A」と匿名表記)です。
2. 知財高裁・共同発明者と会社との間の「特許を受ける権利」の帰属
知的財産高等裁判所第2部/令和8年7月29日判決/令和7(ネ)10081(原審:東京地方裁判所 令和7(ワ)70002)/特許を受ける権利の確認請求控訴事件/権利種別:特許権/発明の名称:「量子ドットを有するナノ複合体及びその製造方法 ほか」
事案の概要
共同発明者である控訴人両名が、被控訴人会社(控訴人の一方が設立に関与)に対し、本件各特許発明に係る特許を受ける権利の共有持分各2分の1を有することの確認を求めた事案です。控訴人らは、①研究開発環境の設定・維持を必須の条件として権利を譲渡した、②対価として売上の5%の支払を受ける確定的な合意が成立していた、と主張しました。
判断の要旨
控訴棄却。裁判所は、被控訴人への譲渡があったこと自体は認めつつ、控訴人らが主張する条件・対価について確定的な合意があったとは認められないとしました。理由として、条件の内容および履行すべき債務の内容が不明確で特定されていないこと、正式な契約書が結局作成されず控訴人側も作成の機会がありながら行動しなかったこと、提出された契約書案が控訴人らの主張と異なる対価条件を記載し捺印もされていないことを挙げています。また、被控訴人が研究開発環境を全面的に廃止したとの主張についても、基礎出願・出願審査請求を行っていること、株式譲渡後も被控訴人が存続し事業継続が予定されていること等から否定しました。
実務上のポイント
- スタートアップ・大学発ベンチャーで頻出する、創業者・技術者個人と法人との間の知的財産の帰属紛争の事例です。
- 口頭の了解や未捺印の契約書案では「条件付譲渡」「対価合意」の立証に足りないことが改めて示されており、設立時・出向時の知財譲渡契約の書面化と、条件・対価条項の具体的特定の重要性を裏付けます。IT・ソフトウェア系の共同開発案件でも同様の構図が生じます。
※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄はいずれも空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。
本日確認したが対象外としたもの
- 下級裁判所(速報)新着一覧の掲載分は、最新でも令和8年7月15日判決(山形地裁 令和7(ワ)212)であり、いずれも既報または刑事事件等のため対象外としました。
- 知的財産裁判例集の令和8年7月22日・同月27日各判決(令和8(ネ)10009、同10014、同10036、令和8(行ケ)10008)は、7月31日・8月1日・8月3日の各速報で報告済みのため除外しています。
出典
- 裁判所ウェブサイト「裁判例検索」
- 下級裁判所(速報)新着一覧
- 新着統合一覧(最高裁判所判例集を含む)
- 知的財産裁判例集 新着一覧
- 各判例の詳細ページ・判決文PDF(上記各項に記載のURL)
本記事は裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)に掲載された公式情報に基づいて作成しています。判決文の全文は各出典リンクからご確認ください。


