【判例速報】知財高裁・商標「Alphacool」大量出願と公序良俗/アプリ管理の顧客情報と営業秘密(2026年8月1日)

裁判所ウェブサイト掲載の新着裁判例のうち、実務上重要なものは2件です(いずれもインターネット関連業務に関係し得るもの)。

本記事についての注記

  • 裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「新着公開分」の厳密な特定はできません。裁判年月日ベースで直近(おおむね2週間以内)の新着分を確認しています。
  • 過去の本速報で既に取り上げた裁判例は除外しています。
  • 下記2件はいずれも裁判例詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」欄が空欄であったため、判決文PDF(原典)を確認して要約しています。

1.知的財産高等裁判所 第2部 令和8年7月27日判決 令和8(行ケ)10008

審決取消請求事件(商標/公序良俗・商標法4条1項7号) 結果:請求棄却

事案の概要

ドイツ法人アルファクール インターナショナル社が、日本の登録商標「Alphacool」(登録第6680828号、第9類・コンピュータ及びグラフィックカード、マザーボード、プロセッサー等の冷却用装置等)について無効審判を請求。特許庁は令和7年12月9日、商標法4条1項7号に該当するとして本件商標を無効とする審決をしました。商標権者Xがその取消しを求めた事案です。

判断の要旨

請求棄却。裁判所は、次の事実等から、Xが被告による引用商標の使用を妨害し、又はその信用に便乗する目的で殊更に本件商標の登録出願をしたと推認し、登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることは商標法の予定する秩序に反するとして、4条1項7号該当性を肯定しました。

  • Xは2019年10月から2024年8月までに80件を出願し、「dyson」「roomba」「xiaomi」等の著名商標と同一・類似のものを多数含む。
  • 登録48件のうち16件(約33%)が異議申立て又は無効審判の対象となっており、年平均約0.5%と比較して異常に高い。
  • 被告は2010年の設立当初から引用商標を自社製品(コンピュータ周辺装置)に使用し、平成28年頃から日本国内でインターネット販売を行い相当程度の売上があった。
  • Xは、商標掲載公報発行から2か月以内に、被告の日本の販売代理店に対し「Alphacool」表記の使用中止を求める内容証明を送付していた。

実務上のポイント

越境EC・インターネット販売により日本市場で認知を得た外国ブランドの商標が、第三者に先取り出願された類型の事案です。商標法4条1項7号該当性を基礎づける客観的指標(出願件数、著名商標との類似出願の集積、異議申立て・無効審判の被申立比率、警告書送付の時期等)の具体的な認定例として、ネット上のブランド保護・商標紛争の見通しを立てる際に参照価値があります。

出典:裁判例詳細ページ(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


2.知的財産高等裁判所 第2部 令和8年7月27日判決 令和8(ネ)10036

損害賠償請求控訴事件(不正競争防止法/営業秘密) 結果:控訴棄却
原審:東京地方裁判所 令和6(ワ)70374

事案の概要

控訴人(D&X株式会社)が、元従業員である被控訴人に対し、顧客情報の取扱いが秘密保持契約上の秘密保持義務に違反し、かつ不正競争防止法2条1項7号の不正競争に該当するとして、損害賠償金3399万3050円及び令和6年9月9日から支払済みまで年3%の遅延損害金の支払を求めた事案です。

判断の要旨

控訴棄却(原判決維持)。本件顧客情報は業務用の「本件アプリ」上でカレンダーイベントの形式で管理されていましたが、裁判所は、控訴人による秘密管理措置が十分にされていたとも、秘密管理意思が従業員等に明確に示されていたともいえないとして、営業秘密性(秘密管理性)を否定しました。社内WiFiのアクセス管理は存在しましたが、それをもって足りるとはされていません。

※有用性・非公知性についての判断は、判決文上明示的な記載を確認できませんでした(未精査)。

実務上のポイント

SaaS・業務用アプリやクラウド上に置かれた顧客データについて、秘密管理性がどこまで要求されるかを示す事例です。ネットワークアクセス制限のみでは足りず、アクセス権限の限定、秘密である旨の表示、就業規則・誓約書の整備といった「秘密管理意思の明示」が必要となる点は、企業のデータ管理体制に関する助言や、元従業員による顧客情報持出し事案の受任判断に直結します。

出典:裁判例詳細ページ(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


今回確認したが取り上げなかったもの

  • 下級裁判所(速報)の新着一覧は、裁判年月日の最新が令和8年7月15日(山形地方裁判所 令和7(ワ)212)で既報。それ以外は令和8年7月9日以前であり、かつ刑事事件(廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反、強盗致死、殺人等)であるため、インターネット関連性・実務上の重要性の観点から対象外としました。
  • 最高裁判所判例集の新着分(令和8年7月16日 令和6(オ)720、同年7月13日 令和6(行ヒ)281、同年7月10日 令和7(さ)1、同年7月7日 令和6(受)1694)は、いずれも既報です。
  • 知的財産裁判例集の令和8年7月22日以前の新着分も、いずれも既報です。

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。