【判例速報】知財高裁・プログラム著作権、審決取消(手続違背)ほか計4件(2026年7月31日)

裁判所ウェブサイト掲載の新着裁判例のうち、実務上重要な4件(うち著作権・ソフトウェア関連1件)を取り上げます。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「新着公開分」の厳密な特定はできません。裁判年月日ベースで直近(おおむね2週間以内)の新着一覧を確認し、7月30日までに本カテゴリで既報のものは除外しています。


1 知的財産高等裁判所 第4部 令和8年7月22日 令和8(ネ)第10014号

損害賠償請求控訴事件/控訴棄却(権利種別:著作権) ★ソフトウェア・著作権関連(原審:大阪地方裁判所 令和7(ワ)第3632号)

事案の概要

控訴人X(個人)が、被控訴人ニタコンサルタント株式会社に対し、「非定常浸透流下にある斜面の安定解析プログラム」が控訴人の著作物または共同著作物であり、被控訴人による改変が複製権・翻案権及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償2800万円(3080万円の一部請求)及び遅延損害金を求めた事案。

判断の要旨

控訴棄却。裁判所は、控訴人が著作したと主張する「原告プログラムの具体的記述として何が作成されたのか全く不明」であるとして、著作物としての原告プログラムの存在自体が認められないと判断した。そのため本件プログラムとの関係を検討することもできず、控訴人が著作者または共同著作者であると認める余地はないとした。控訴人提出の陳述書によっても原告プログラムの具体的記述は明らかにされておらず、被控訴人が本件プログラムの中核部分について控訴人作成プログラムを利用したことを自白したとも認められないとした。

実務上のポイント

  • プログラムの著作権侵害を主張する側にとって、まず「自己の著作物であるプログラムの具体的記述」の特定・立証が出発点となることを改めて示した事例。
  • ソースコード等による特定を欠く場合、著作物性・依拠性・類似性の議論に入る前段階で請求が排斥される。
  • 受託開発・共同開発後の権利帰属争いや、ネット上で配布されるソフトウェアの改変をめぐる紛争において、証拠保全(開発時点のソースコード・版管理履歴の確保)の重要性を示す。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF
※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄はいずれも空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。


2 知的財産高等裁判所 第4部 令和8年7月8日 令和7(行ケ)第10081号

審決取消請求事件/審決取消(権利種別:特許権) 参照法条:手続違背(特許法159条2項、同法50条)

事案の概要

「二酸化炭素を電気化学還元する方法」に係る特許出願(特願2020-546445号)について、拒絶査定不服審判の審決の取消しを求めた事案。原告はネーデルランセ オルハニサチエ フォール トゥーヘパスト-ナツールウェーテンシャッペルック オンデルズク テーエヌオー、被告は特許庁長官。原告は、審判手続において「査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に当たるにもかかわらず、意見書提出・補正の機会が与えられなかった手続違背を主張した。

判断の要旨

審決取消。本件拒絶査定と審決とでは吸収剤として異なる物質が認定されていたところ、引用文献では炭酸ナトリウム溶液等と「ギ酸とギ酸ナトリウムを含む混合溶液」とが全く別のプロセスで使用されており、両者は代替品の関係にないとされた。この認定の変更は出願人にとって「不意打ち」に当たり、特許法159条2項・50条に違反する違法があるとして、審決が取り消された。

実務上のポイント

  • 拒絶査定不服審判において、審決が査定と異なる引用例・異なる認定に基づいて結論を導く場合、改めて拒絶理由通知を経なければ手続違背となることを示した事例。
  • 不意打ち性の判断軸として、査定時の認定物と審決時の認定物が「代替品の関係にあるか」を検討している点が実務上参考になる。
  • 本件は裁判所公表の裁判要旨PDFが存在する。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF
※詳細ページの「判示事項の要旨」欄は空欄のため、上記は裁判要旨PDFに基づく要約です。


3 東京地方裁判所 令和8年7月14日 令和7(ワ)第70116号

特許権侵害差止等請求事件(権利種別:特許権)

事案の概要

特許第5710036号「トルクセンサ」(出願日 平成26年2月26日、登録日 平成27年3月13日、訂正審決日 令和7年1月29日)の特許権に基づき、被告製品の生産・譲渡・輸出等の差止め及び廃棄が求められた事案。争点は、被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか(構成要件「中空円盤形状」「電源回路」の充足性)、及び拡大先願・新規性・進歩性に係る無効理由の有無。

判断の要旨

  • 「中空円盤形状」:被告製品のロータ基板が2枚の壁材と8本の柱材から成る立体形状であり直線部による切り欠きがあるものの、その切り欠きは僅少であり、構成要件上、基板が1枚である必要も厚みの制限もないとして充足を認めた。
  • 「電源回路」:直流・交流変換機能が分離していることは「電源回路」の複数化を意味せず、外部コネクタから供給される電力が一体の構成として出力回路と回転トランスに給電されれば足りるとして充足を認めた。
  • 無効理由:拡大先願(乙4発明)については、訂正により「V/F変換回路を除く」と限定されたため先願との同一性が解消されたとした。
  • 主文:被告製品の生産・譲渡・輸出・展示の差止め及び廃棄を命じるもの。

※進歩性欠如の主張に対する判断の結論については、原典から確定的に読み取れなかったため未精査です。推測での補完はしていません。

実務上のポイント

インターネット関連分野ではないが(機械・センサ技術)、訂正審決を経た特許権に基づき、構成要件充足性・無効の抗弁がいずれも排斥されて差止め及び廃棄が認容された事例。クレーム文言に明記のない要素(部材の枚数・厚み)を限定解釈しない判断手法は、ソフトウェア特許のクレーム解釈にも通じる。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF
※詳細ページの「結果」「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄はいずれも空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。


4 知的財産高等裁判所 第4部 令和8年7月1日 令和7(行ケ)第10100号

審決取消請求事件/請求棄却(権利種別:特許権)

事案の概要・判断の要旨

発明等の名称「ロボット、プログラム及び方法」に係る拒絶審決の取消訴訟。原告はGROOVE X株式会社、被告は特許庁長官。主な争点は進歩性及び相違点の判断。結果は請求棄却。

※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄はいずれも空欄であり、判決文PDFの内容は本記事作成時点で未精査です。理由の詳細は推測で補っていません。

実務上のポイント

ロボット・プログラム関連発明の進歩性判断に関する知財高裁の新着事例。IoT・ロボティクス分野の出願実務の参考となり得る。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF


今回確認したが本記事の対象外としたもの

  • 静岡地裁沼津支部 令和8年7月9日 令和8(わ)112(廃棄物処理法違反)、佐賀地裁 令和8年7月9日 令和7(わ)159、広島地裁 令和8年7月3日 令和7(わ)559(強盗致死)、東京高裁 令和8年7月1日 令和6(う)1875(殺人)ほかの刑事事件は、インターネット関連業務及び一般的実務上の重要性の観点から除外しました。
  • 7月30日までに本カテゴリで既に取り上げた判例(最高裁 令和8年7月16日 令和6(オ)720、同7月13日 令和6(行ヒ)281、同7月10日 令和7(さ)1、同7月7日 令和6(受)1694、知財高裁 令和8年7月22日 令和8(ネ)10009、同7月15日 令和6(ネ)10081・令和7(ネ)10084、東京地裁 令和8年7月15日 令和7(ワ)70435、大阪地裁 令和8年7月9日 令和6(ワ)8646、山形地裁 令和8年7月15日 令和7(ワ)212、札幌高裁 令和8年7月2日 令和6(行コ)9 ほか)は、重複を避けるため除外しています。
  • 知財高裁 令和8年7月15日 令和7(行ケ)10028(審決取消請求事件)は、判示事項の要旨が空欄の個別事案であり、既報記事で対象外として言及済みのため除外(未精査)。詳細ページ

出典

本記事は裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)に掲載された公式情報に基づいて作成しています。判決文の全文は各出典リンクからご確認ください。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。