【判例速報】知財高裁・越境EC特許(アリババ)、最高裁・辺野古埋立の原告適格ほか計5件(2026年7月29日)

裁判所ウェブサイト掲載の新着裁判例のうち、実務上重要な5件(うちインターネット関連1件)を取り上げます。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「新着公開分」の厳密な特定はできません。裁判年月日ベースで直近(おおむね2週間以内)の新着一覧を確認し、7月28日までに本カテゴリで既報のものは除外しています。


1 知的財産高等裁判所第4部 令和8年7月15日 令和6(ネ)10081

特許権侵害差止請求控訴事件/控訴棄却(原審:東京地方裁判所 令和5(ワ)70219) ★インターネット関連

事案の概要

越境EC通関手続に関する特許(通関認証装置から事前通関情報を取得し、その情報をECサーバに送信する構成)について、アリババ株式会社による本件プログラムの電気通信回線を通じた提供の申出が、当該特許の技術的範囲に属するか否かが争われた事案。

判断の要旨

本件プログラムは、シングルウィンドウ(税関手続システム)から返送される情報に関税関連の新規情報が含まれず、「通関認証装置から」事前通関情報を取得しているとは認められないとして、構成要件Dの充足を否定。構成要件Dを充足しない以上、「前記事前通関情報」を取得・送信するとの構成要件Eも充足しないとして技術的範囲該当性を否定し、控訴を棄却した。

実務上のポイント

ネットワーク経由でのプログラム提供の申出が問題となった事案で、構成要件充足性を情報の「取得元」のレベルで厳格に判断している。越境EC・SaaS型サービスの特許クリアランス、及びネットワーク型システム特許のクレーム解釈の実務に参考となる。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF
※詳細ページの「判示事項の要旨」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。


2 最高裁判所第一小法廷 令和8年7月16日 令和6(オ)720

損害賠償請求本訴、同反訴事件/破棄差戻(原審:東京高等裁判所 令和5(ネ)2730・令和6年1月17日)

判示事項(裁判所公表)

「当事者である労働組合の代表者とされた者に代表権が認められず、原判決に民訴法312条2項4号に該当する事由がある」とされた事例

事案・判断の要旨

別件訴訟の確定判決により、Aを代表者に選任する旨の総会決議が平成27年から令和5年までの間において不存在であることが確定した。本件訴訟はそのAを代表者として提起・追行されたものであり、民訴法312条2項4号に該当する事由があるとして原判決を破棄。もっとも、令和6年5月及び令和7年9月の総会決議により追認された旨の主張がされていることから、その当否について更に審理を尽くさせるため東京高等裁判所に差し戻した。

実務上のポイント

法人・団体(法人登記のある労働組合等)を当事者とする訴訟では、代表権の存否が絶対的上告理由に直結する。訴訟提起・受任時における代表者選任手続の確認、及び瑕疵がある場合の追認による治癒の可否が実務上の要点となる。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF


3 最高裁判所第一小法廷 令和8年7月13日 令和6(行ヒ)281

公有水面埋立撤回処分に対し国土交通大臣がなした裁決の取消請求事件/結果「その他」(原審:福岡高等裁判所那覇支部)

判示事項(裁判所公表)

「埋立地の用途を飛行場及びその施設の用地等とする公有水面の埋立てに係る埋立区域の周辺住民が上記公有水面の埋立てに係る承認を事後に判明した事情等を理由として取り消す処分を取り消す裁決の取消訴訟の原告適格を有するとされた事例」

事案・判断の要旨

沖縄県知事による公有水面埋立承認の取消処分に対し、沖縄防衛局の審査請求を受けた国土交通大臣がした裁決の取消しを、埋立地周辺の住民らが求めた事案(米軍普天間飛行場代替施設の建設予定地)。埋立承認の要件のうち「埋立地の用途が環境保全計画に違背しないこと」は、周辺住民が飛行場の供用に伴う航空機騒音等により健康・生活環境に著しい被害を受けないという具体的利益を、個々人の個別的利益としても保護する趣旨であると解し、環境基準(W値70)の直近地域(70W線から90〜194m圏内)に居住する住民らの原告適格を肯定した。他方、被上告人X3については原審判決を破棄し、同人の控訴を棄却した。

実務上のポイント

処分の名宛人以外の第三者の原告適格につき、根拠法令の要件解釈から個別的利益の保護性を導き、距離・騒音基準という客観的指標で線引きした最高裁の具体的判断。行政事件訴訟法9条2項の当てはめの先例として参照価値が高い。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF


4 大阪地方裁判所 令和8年7月9日 令和6(ワ)8646

(知的財産裁判例集掲載・権利種別「その他」。裁判所サイト上、事件名・結果欄は空欄)

事案の概要

美容外科グループを運営する医療法人が、退職した医師に対し、「競業禁止に関するルール変更確認書」に基づく競業避止義務(退職後1年間、退職前に院長として勤務した地域から半径10km以内での競業禁止)に違反してクリニックを開設したとして、逸失利益1億6120万6340円等の損害賠償を請求した事案。

判断の要旨

  • 競業禁止の合意の有効性は、守られる利益の内容・性質、在職中の地位、代償措置の有無、禁止行為の範囲や期間等を総合考慮して判断すべきとした。
  • 被告が院長兼理事という高位の地位にあり顧客情報へのアクセス可能性が高かったこと、禁止範囲(半径10km・1年)が限定的であること、年額2500万円の給与及び独立サポート制度という代償措置があることから、合意を有効と認定。
  • 錯誤の主張(表示行為の錯誤・動機の錯誤)はいずれも排斥。
  • 損害額は、売上減少額1億7911万8155円に限界利益率80%を乗じたうえ、グループ内の店舗過剰出店等の競業行為以外の要因を考慮し、因果関係のある損害を2200万円と認定して、その限度で請求を認容した。

実務上のポイント

競業避止合意の有効性判断枠組みと、損害額における相当因果関係を理由とする大幅な減額が示された事例。事実認定中に、SNS広告・院長名義のSNSアカウントによる症例/口コミ発信、ウェブサイトへの医師の氏名・肖像写真の掲載、予約プラットフォームの利用といったネット集患の実態が現れており、ネット集患を前提とする業種の競業・顧客奪取紛争の参考となる。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF
※詳細ページの「判示事項の要旨」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。


5 山形地方裁判所 令和8年7月15日 令和7(ワ)212

損害賠償請求事件(詳細ページの裁判種別・結果・判示事項の要旨はいずれも空欄)

事案の概要

平成5年1月13日に中学校体育館内で少年7名から暴行を受けて死亡した被相続人の遺族が、加害者らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償(逸失利益・慰謝料、遺族固有の葬儀費用・慰謝料・弁護士費用等)を請求した事案。

判断の要旨

平成16年の確定判決により既に請求原因が認容されているため、被告が再度これを否認することは信義則に反すると判断。消滅時効については、強制執行手続の終了までは時効の中断が継続し、本訴提起が10年以内であることから時効の完成猶予が生じるとした。認容額は原告ごとに算定されている(一部弁済済み)。

実務上のポイント

確定判決により時効期間が10年に延長された債権について、強制執行手続と時効の中断・完成猶予の関係、及び再訴における前訴確定判決の効力(信義則)を扱った事例。

出典:裁判例詳細ページ判決文PDF
※詳細ページの要旨欄が空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。


今回確認したが本記事の対象外としたもの

  • 知的財産高等裁判所4部 令和8年7月15日 令和7(行ケ)10028 審決取消請求事件(請求棄却) 判示事項の要旨が空欄で、審決取消訴訟の個別事案であり、一般的な実務上の重要性は限定的と判断しました(未精査)。詳細ページ
  • 7月28日までに本カテゴリで既に取り上げた判例(最高裁令和8年7月10日 令和7(さ)1、同7月7日 令和6(受)1694、札幌高裁令和8年7月2日 令和6(行コ)9、知財高裁令和8年7月8日 令和8(ネ)10015等、同6月29日 令和8(ネ)10024、最高裁令和8年6月22日 令和8(ク)407 ほか)は、重複を避けるため除外しています。

出典

本記事は裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)に掲載された公式情報に基づいて作成しています。判決文の全文は各出典リンクからご確認ください。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。