ネットの誹謗中傷の慰謝料はいくらになりそう?弁護士が分かりやすく解説します
Q インターネットの掲示板やSNSに、私を中傷する投稿をされました。慰謝料を請求したいのですが、いくらくらいになるのでしょうか。「相場」はあるのでしょうか。
A 法律に慰謝料の「相場表」はありません。慰謝料は、裁判所が事案ごとの事情を総合して判断します。裁判所ウェブサイトで公開されている裁判例をみると、投稿が数件の事案で数十万円から100万円程度、投稿が長期間・多数にわたる悪質な事案で数百万円が認められたものがあります。ただし、これらはあくまで個々の事案についての判断であり、同じ金額が認められることを保証するものではありません。
【解説】
1 慰謝料を請求できる法律上の根拠
他人の権利や利益を違法に侵害した人は、それによって生じた損害を賠償しなければなりません(民法709条)。そして、財産上の損害だけでなく、精神的な苦痛のような「財産以外の損害」についても賠償の対象になります(民法710条)。この精神的苦痛に対する賠償金が、いわゆる慰謝料です。
ネット上の誹謗中傷では、主に次の3つが問題になります。
- 名誉毀損……具体的な事実を示して、社会的な評価(世間からの評判)を低下させる場合
- 名誉感情の侵害(侮辱)……「バカ」「クズ」など、事実を示さずに人格を罵倒し、本人の自尊心を傷つける場合
- プライバシーの侵害……住所、家庭の事情、病歴など、他人に知られたくない私生活上の事柄を公開する場合
2 なぜ「相場表」がないのか
交通事故には、自賠責保険の支払基準のように金額の目安が定められた仕組みがあります。しかし、名誉毀損などの慰謝料については、そのような公的な基準がありません。精神的な苦痛という目に見えないものを金銭に換算する作業であるため、裁判所が個別の事情を総合的に考慮して金額を決めることになります。
ですから、「〇〇と書かれたから必ず〇〇円」といった説明は、正確ではありません。インターネット上には断定的な金額表が掲載されていることもありますが、鵜呑みにしないほうがよいと考えます。
3 金額を左右する主な事情
裁判例を読むと、おおむね次のような事情が考慮されています。
- 書かれた内容の悪質性(犯罪をしたという指摘か、単なる悪口か など)
- どれだけ広まったか(サイトの性質、閲覧できる人の数、検索結果への出やすさ)
- 投稿の回数と期間(1回限りか、長期間繰り返されたか)
- 被害者が受けた具体的な不利益(退職、取引の中止、通院 など)
- 投稿者の目的や態度(執拗さ、削除の求めに応じたかどうか)
- 被害者が個人か、事業者か
4 実際の裁判例
いずれも裁判所ウェブサイトで判決文が公開されているものです。裁判例名をクリックすると、裁判所ウェブサイトの判決文(PDF)が開きます。
- 東京地方裁判所令和3年11月30日判決(令和2年(ワ)第14093号)……ツイッター(現X)上の投稿とリツイートについて、名誉毀損および名誉感情の侵害を認め、投稿者に88万円、リツイートをした2名にそれぞれ11万円の支払を命じました。
- 東京地方裁判所令和5年10月16日判決(令和3年(ワ)第25884号)……ツイッター上の投稿が名誉毀損にあたるとして、原告それぞれについて慰謝料100万円と弁護士費用相当額10万円の限度で請求を認めました。
- 大阪地方裁判所令和5年6月9日判決(令和2年(ワ)第12774号)……ブログやツイッターで長期間にわたり多数の投稿が繰り返された事案です。名誉毀損、名誉感情の侵害、プライバシーの侵害などを認め、被告らに対し250万円から429万円の支払を命じました。
なお、リンク先が開かない場合には、裁判所ウェブサイトの「裁判例検索」で、上記の裁判年月日と事件番号を入力してお探しください。
投稿が一回限りの事案と、長期間繰り返された事案とでは、金額に大きな差が生じていることがお分かりいただけると思います。
5 慰謝料以外に請求できる場合があるもの
匿名の投稿の場合、まず投稿者を特定する手続(発信者情報開示請求。情報流通プラットフォーム対処法5条)が必要になります。この手続にかかった費用のうち一定額を、損害として請求できる場合があります。もっとも、どこまで認められるかは裁判所の判断によります。
なお、従来の「プロバイダ責任制限法」は改正され、令和7年(2025年)4月1日から「情報流通プラットフォーム対処法」という名称になりました(総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」)。
6 注意していただきたい点
第1に、時効です。損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年を経過すると、請求できなくなります(民法724条)。投稿者が判明するまでに時間がかかることも多いため、早めのご相談をおすすめします。
第2に、投稿の内容によっては、そもそも違法とはいえない場合があります。たとえば、公共の利害に関する事柄について、確実な資料や根拠に照らして真実と信じたことに相当の理由がある場合には、責任を負わないことがあります。この点について、最高裁判所は、インターネットの個人利用者による表現行為であっても、他の表現手段の場合と同様に判断すべきであるとしています(最高裁判所平成22年3月15日決定・刑集64巻2号1頁)。「ネットだから基準がゆるい」ということはありません。
第3に、投稿者に資力がなければ、判決を得ても実際の回収が難しいことがあります。慰謝料の金額だけでなく、削除や再発防止も含めて、何を目的とするかを整理してから手続を選ぶことが大切です。
7 まずはご相談ください
金額の見通しは、投稿の文言、投稿日、掲載されたサイト、期間、被害の実情を見なければ立てられません。投稿が削除されると証拠が失われますので、該当ページを印刷して保存したうえで、お早めにご相談ください。
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※本記事は一般的な法律解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な事案は弁護士にご相談ください。

