弊所FAQ4~10人に1人以上が嫌疑不十分~

Q 逮捕が罰ではないことは理解しました。でも、逮捕されたということは、それなりの理由があるということですよね?

A 必ずしも、それなりの理由があるとは限りません。現に、逮捕された方のうち、約11.5%は、嫌疑不十分で終わっています。つまり、逮捕された方のうち、10人に1人以上は、「それなりの理由」がなかったことになります。

【解説】

今回も、統計からみていただきましょう。今回は、2022年の検察統計の「既済事由別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員」をご覧ください。

2022年の逮捕の件数が26万1629件であり、そのうち、「嫌疑不十分」が3万0176件となっています。要するに、逮捕したものの、大した証拠がなかったというのが「嫌疑不十分」です。
いわば、「それなりの理由」が無かったのが、3万0176件です。割合にすると、約11.5%ということになります。

この約11.5%を高いとみるか、低いとみるかは、評価の問題であり、人それぞれです。
ただ、逮捕の報道を10人分みたとして、そのうちの10人に1人は、「嫌疑不十分」であり、「それなりの理由」がなかったと考えると、私はむしろ多いと感じています。

ちなみに、似て非なるものは、「起訴猶予」です。こちらは、10万0310件です。約38.3%です。起訴猶予の場合は、「それなりの理由」がある場合が、ほとんどです。

たとえば、暴行事件を起こしたものの、被害者が「怪我が無かったから許します」と言ってくれたとか、窃盗をしたものの品物を返したら許してくれたとか、故意に人の物を壊したけれども賠償金を受け取ってもらえたとかという場合です。
逮捕自体には「それなりの理由」があるといえるでしょう。

このように、嫌疑不十分と、起訴猶予は、大きな差があります。

ただ、昨今の報道を見る限り、不起訴になった場合の理由が公表されないことが多いように感じます。
稀に、「公判を維持できるほどの証拠がないと判断した(=嫌疑不十分を認めた)」という理由が公開されることはあります。しかし、ほとんどの場合は、「検察は不起訴の理由を明らかにしていません。」とされることが多いように感じます。

もちろん、検察には検察の事情があるのかも知れません。あるいは、うかつに「被害者と示談が成立したから」などと公表すると、被害者の方に「なぜ示談を成立させたんだ。徹底的に懲らしめるべきだ。」などとお門違いの批判が行くのを慮っているのかも知れません。

また、そもそも、不起訴を報道するか否かは、各報道機関の判断に委ねられています。

したがって、逮捕は報道されたものの、不起訴が報道されなかったという場合もあるでしょう。

以上のとおり、「それなりの理由」が無いにも拘らず逮捕された方が、統計上、少なくない数いらっしゃるうえに、どなたが、「それなりの理由」がなく逮捕されたのか分からないというお話でした。