ハンコについて本気出して考えてみた7~実印や銀行印でなくとも~

「ハンコについて本気出して考えてみた4」を投稿したところ、「文中にある、『また、私の経験上、たとえ、実印でもなく、銀行登録印でないとしても、何回か取引に使っているハンコだと、本人が所有するハンコとして認められることがあります。』について詳しく知りたいです。」という御要望をいただきました。ありがとうございます。

弁護士には守秘義務があるので、私の経験そのものを記載することはできません。そこで、少し事案を変えてお話します。

Aさんは、ガンを患い、2020年1月1日から入院し、2020年12月末日に死亡しました。Aさんは、個人事業主でした。Aさんは2015年から、年に1回くらいの頻度でBさんから事業資金を借りていました。
Bさんは、2022年1月1日、Aさんの遺族に、事業資金の返還請求訴訟を起こしました。
Bさんの主張は、2020年6月1日に貸した1000万円が返済されていないというものでした。

Bさんは、自らの主張を裏付ける証拠として、2020年6月1日付の1000万円の借用書はもちろん、2019年6月1日付の借用書とその返済を示す書類、2018年6月1日付の借用書とその返済を示す書類、2017年6月1日付の借用書とその返済を示す書類を、裁判所に提出しました。
いずれの書類にも、Aさんの印鑑が捺されていましたが、Aさんの実印ではありませんでした。
また、Aさんの口座には、2020年6月1日以降に、1000万円が入金された形跡もありませんでした。
つまり、Bさんは、1000万円を手渡しで貸したと主張したのです。

Aさんの遺族は、「2020年6月1日ころは、ガンの影響で事業どころではなく、1000万円などという大金を借りたはずがない。」等と反論しました。

しかし、裁判官は、2020年6月1日付の借用書には、これまできちんと返済してきた書類と同じハンコが捺されているので、2020年6月1日の借用書のハンコもAさんが捺したのであろうと認め、Aさんの遺族に1000万円を返すよう、命じる判決を下しました。

このように、たとえ実印ではないとしても、何度か正常な取引に使われていたハンコであれば、「本人が捺しただろう」と認められることがあるわけです。

もちろん、この例は、Aさんが死亡していたことは大きいとは思います。もし、Aさんが生きていれば、もっと反論できたことでしょう。たとえば、「2020年6月1日は、○○にいたので、Bさんとは会っていない。」「2020年6月1日時点では既に開店休業状態であった。2020年の確定申告書上も、2020年6月1日以降、売上が0である。」など具体的に反論できたでしょう。
しかし、Aさんが死亡した以上、具体的な反論ができず、実印ではないハンコが重視されたという点はあったと思われます。

以上のとおり、実印ではないとしても、ハンコは重視されることがあるというお話でした。