ハンコについて本気出して考えてみた6~やはり保管は厳重に~

前回の「本人が捺しただろう」が覆った例をご覧になり、「実印でも意外となんとかなるんだな。」とお考えになった方がいらっしゃるかも知れません。

しかし、そうではありません。覆らなかった例の方が多いです。

たとえば、「実印を自分の勤務先の引き出しに入れっぱなしにした結果、同僚に勝手に実印を使われて、ローンを組まされた。」という主張をした方がいました。
しかし、裁判所は、「実印を引き出しに入れっぱなしにすることは、通常考えにくい」と断罪し、「本人が捺しただろう」と認めました(高松高判平成7年12月18日)。

また、「従業員が、自分の実印を勝手に使って、自分を連帯保証人にした。」という主張をした方がいました。
しかし、裁判所は、従前からその従業員には、実印を使わせていたことなどを踏まえ、「本人が捺しただろう。」と認めました(東京地判平成16年8月21日)。

また、違う事例においても、従前から実印を自由に使わせていたことを重視し、「本人が捺しただろう。」と認めた最高裁判例もあります(最判昭和63年9月29日)。

このように、裁判官としては、「実印は、厳重に保管されているものである。したがって、実印は本人しか手にしないはずである。もし、本人以外の者が手にしたとすれば、本人が許可したからであろう。」と思っているようです。

ちなみに、「実印および印鑑登録カードを預けることは、契約締結を依頼した解釈される可能性がある。」という趣旨のことを述べている学者様もいらっしゃいます(判例タイムズ第1421号p20脚注)。

ということで、やはり、実印は厳重に保管しなければならないというお話でした。
あくまで前回挙げた例は、特殊な例に過ぎません。