動画制作者に伝えたい著作権の話6~肖像権との関係は?~

前回は、著作物がたまたま映り込んだ場合について、ご説明しました。
今回は、たまたま人物が映りこんだ場合には、どう考えたら良いのかをお伝えします。

人物は、著作権の対象になりません。しかし、肖像権という形で保護の対象になっています。
したがって、どのような場合に、肖像権の侵害になるのかを考えたいと思います。

現時点までの判例を基準に考えるのであれば、
①不特定多数の者の姿を全体的に撮影した場合
又は
②撮影した写真の一部にたまたま特定の個人が写り込んだ場合
には、肖像権の侵害にならないといえます(東京地判平成17年9月27日)。

判例上は、「写真」と書かれていますが、肖像権が問題になるため、動画も同じように考えることは可能といえます。
これを、私流に解釈すると、例えば、旅行動画を撮る際に「本日は、JR新宿駅から出発します。見てください、ものすごい人出ですね~。」といって、JR新宿駅の雑踏を撮影した場合には、①不特定多数の者の姿を全体的に撮影した場合として、肖像権侵害にならない可能性があるといえます。

あるいは、秘境駅を紹介する目的で動画撮影をした際、たまたま、同じように秘境駅を訪れていた数人の旅行者が映ったとしても、②撮影した写真の一部にたまたま特定の個人が写り込んだ場合にあたり、肖像権侵害にならない可能性があるといえます。

したがって、皆様が動画をアップロードした後、「自分が映っている!肖像権の侵害だ!」という苦情が来ても、①不特定多数の者の姿を全体的に撮影した場合、又は、②撮影した写真の一部にたまたま特定の個人が写り込んだ場合にあたれば、「肖像権の侵害には当たりません。」という反論が成り立つようにも思えます

……はい。いつも以上に歯切れが悪いことにお気づきでしょうか。
そうなんです。正直申し上げて、仮に、今、YouTubeの動画で肖像権侵害を争った場合、どうなるのか、私には全く読めません。

先ほどの、東京地判平成17年9月27日は、どのような理屈で肖像権侵害を認めたか、見てみましょう。

先ほどの判例では、「原告の全身像に焦点を絞り込み、容貌を含めて大写しに撮影したものであるところ、このような写真の撮影方法は、……原告に強い心理的負担を覚えさせるものというべきである。」という理由で、肖像権侵害を認めました。

これだ読むと、「やっぱり、①不特定多数の者の姿を全体的に撮影した場合、又は、②撮影した写真の一部にたまたま特定の個人が写り込んだ場合なら大丈夫では?」と思うかも知れません。

しかし、判例は、結論としては、「強い心理的負担を覚えさせるものというべきである。」という理由で、肖像権侵害を認めています。つまり、「①不特定多数の者の姿を全体的に撮影した場合、又は、②撮影した写真の一部にたまたま特定の個人が写り込んだ場合」は「強い心理的負担」を与えない例に過ぎません。


さて、YouTubeはどうでしょうか?新型コロナウィルス感染症拡大で、外出自粛が求められる現在、いつでも、何回でも見返せる媒体で、かつ、拡散性の高い媒体であるYouTubeにアップロードされること自体、「強い心理的負担を覚えさせるものというべきである」という認定がなされるリスクは皆無ではありません。

つまり、仮に、不特定多数であっても、たまたま映り込んだ場合であっても、コロナ禍以降に撮影した、人が判別できる動画をYouTubeにアップロードするのは、一定のリスクがあると言わざるを得ません。

ということで、私としては、少なくともコロナ禍以降の動画については、人物の顔についてはボカシを入れた方が無難ではないかと考えております。
皆様も、ご検討ください。