相続法が変わります5
婚姻期間20年以上の夫婦については、居住用の土地建物の贈与について持ち戻し免除の推定
【第903条】
4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
1 ひとこと解説
婚姻期間が20年以上である夫婦が、生前または遺言書の中で、居住用財産を贈与した場合、持ち戻し免除意思表示があったものと推定されます。
2 持ち戻しとは
贈与を受けた財産も遺産に加えたうえで、相続分を計算することです。
したがって、持ち戻し免除とは、遺産に加えずに計算するということになります。
3 例
Bさんは、Aさんと結婚して20年以上経っていました。AさんとBさんは、A名義の家(1000万円相当)に住んでいました。
Aさんは、生前、BさんにA名義の家を贈与しました。なお、AさんにはCという子どもも居ました。
その後、Aさんは、2000万円の現金のみを遺して死亡しました。
もし、903条4項がないと、1000万円の家については、遺産に加える計算をすることになります。
したがって、(2000万円+1000万円)÷2で、BもCも1500万円の財産を受け取れるように計算しなければなりません。
この場合Bさんは、既に1000万円分の財産を受け取っていますから、残り500万円の現金しか受け取れません。
Cが現金1500万円を受け取ることになります。
903条4項によって持ち戻し免除が推定される場合、1000万円の家は相続財産に含まれないことになります。そのため、2000万円÷2で、BもCも1000万円ずつ取得することになるのです。
4 注意点
ア 遺留分減殺請求権までをも防ぐものではありません(最一小決平成24年1月26日参照)
※上記の例で、現金が0円だった場合、Bさんは、Cから「遺留分減殺請求権を行使するので、250万円支払え」と言われてしまいます。
イ 「推定」に過ぎないので、争う余地はあります。したがって、遺言書を書くなら、ちゃんと持ち戻し免除の意思表示を書いておくのが無難といえます。903条4項は、うっかり書き忘れた方のための救済措置と考えた方が良く、持ち戻し免除を書かなくても良いという意味ではないのです。