民法改正講義案5(保証1)-家を貸している・借りている方は御一読を!-
今回は、かなり重要です。ぜひ、覚えておいてください。
1 個人根保証人は、極度額を定めなければならない
【第465条の2】
1 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。
(1)ひとこと解説
個人(=法人以外の方)が、根保証人になる際には、極度額を定める必要があります。極度額を定めなかった場合には、根保証契約が無効になります(お金の貸し借り自体は、無効になりません。)。
(2)そもそも、根保証とは ※根保証をご存じの方は読み飛ばして(3)を読んでください。
「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証」を根保証といいます。……といっても分かりづらいと思うので、普通の保証と比べた方が良いと思います。
普通の保証は、1つの債務(=借金)を保証します。たとえば、Aさんが銀行から1000万円を借りる際、Bさんが、銀行に対し「Aさんが1000万円を支払えなかったら、私が代わりに支払います」というのが、普通の保証です。「Aさんの、銀行に対する1000万円の支払義務」という1つの債務を保証するわけです。
ここで、Aさんが、頻繁に貸し借りを繰り返すとしましょう。いきなり1000万円借りるのではなく、まず100万円を借り、さらに200万円を借り、ちょっと収入が入ってきたので250万円を返し、さらに設備投資をしようと300万円を借りる……となると、どうでしょうか。
これに普通の保証をつけようとすると、100万円、200万円、300万円という3つの債務を保証することになります。つまり、Bさんを普通の保証人にする場合には、3回契約書を作らなければいけません。これでは面倒です。
そこで、一定の範囲を定めるのであれば、一括して保証したことにする制度が作られました。それが「根保証」です。「根こそぎ保証する」というイメージを持っていただければよいと思います。上の例でいえば、「Aさんと銀行の、お金の貸し借りに関する範囲」をBさんが保証するという契約書を1通作れば、Bさんが、上の3つの債務を全て保証したことになります。
(3)詳細解説
これまで、根保証については、金銭の貸し借りを除き、上限(=極度額)を定めなくてもよいことになっていました。しかし、今後は、金銭の貸し借りのみならず、全ての根保証契約において、個人が根保証人になる場合には、上限を定めなければならなくなりました。もし、上限を定めていないと、根保証契約が無効になります。
上の例でいえば、Bさんの保証が無効になります。ただし、その場合でも、Aさんと銀行の取引は無効になりません。つまり、保証人不存在の借金となるわけです。
ただ、「根保証」というと、個人事業主や、法人が用いるイメージが強く、事業をやっていない方は、「自分には関係ないのでは?」と思われるかも知れません。
いえ、実は、根保証は意外と身近にあります。一つの例は、不動産賃貸借です。要するに、アパートを借りる際の保証などです。事業をやっていない方でも、学生時代にアパートを借りたことがあるとか、今、借家住まいである方は、多いのではないでしょうか。きっと、その際に、保証人を求められたことがあると思います。その保証は、実は、根保証なのです。
不動産の賃貸借というと、「家賃」という一つの債務というイメージがあるかも知れません。しかし、家賃は、1か月ごとに支払うことが多いです。したがって、1か月ごとに債務が発生するのです。つまり、2年契約であれば、24個の債務があることになります。また、もし、借りている不動産を、故意に汚損した場合、その損害賠償義務についても、保証人が責任を負います。損害賠償も、家賃とは別の債務です。
したがって、新法施行後(2020年4月1日以降)に、不動産賃貸借契約を締結する場合、保証人については、極度額を定めておかないと、保証は無効になります。不動産賃貸業者の方は、重々お気をつけください。
(4)補足
2020年4月1日以降の不動産賃貸借契約に個人根保証人をつける場合には、極度額の定めが必要です。2020年3月31日までに契約をする場合には、極度額の定めは不要です。
では、2019年5月1日に不動産賃貸借契約を締結し、2020年5月1日に更新する場合はどうなるでしょうか。合意で更新する場合には(改めて契約書をつくる場合には)、極度額を定める必要があることは明らかです。
しかし、わざわざ契約書を作らず、自動更新したらどうなるでしょうか。立法者によると、「厳密に決まっているわけではないが、極度額を定める必要があるだろう」ということです。
少なくとも、今では一般的になってしまった、更新料が必要な更新では、極度額を定める必要があるでしょう(私見)。
なお、新法対応の契約書ひな型が、いずれ国交省ウェブサイトにアップロードされる予定とのことです。ただ、実情に合わせるため、弁護士に契約書のチェックを求めるよう、おすすめいたします。