【判例速報】知財高裁・取引先向けニュースでの特許侵害の告知と虚偽事実(不競法2条1項21号)ほか計4件(2026年10月15日)
裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの4件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件。ただし1件は、特許権者が加盟店に電子データで送信したニュースの記載が営業誹謗に当たるとされた事案です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。
1 知的財産高等裁判所第3部 令和8年10月1日判決(令和8年(ネ)第10010号 特許権侵害差止等請求本訴、不正競争行為差止等請求反訴控訴事件。原審 東京地方裁判所令和6年(ワ)第70096号、同第70274号)
事案の概要
発明の名称を「凹凸素材の遮熱構造」とする特許権(特許第5445808号)を有する一審原告が、一審被告ライフテックが販売する遮熱材を使用して一審被告山創が施工した遮熱構造が特許権を侵害するとして、生産の差止めと損害賠償を求めた(本訴)。一審被告らは、一審原告がその取引先に対して文言1~3を内容として含む電子データを配布した行為(本件告知)が不正競争防止法2条1項21号の不正競争に当たるとして、告知の差止め、損害賠償及び謝罪文の掲載を求めた(反訴)。
判断の要旨
主文:一審原告の本件控訴に基づき、原判決中、反訴に係る部分を変更。一審原告の本件控訴中本訴に係る部分及び一審被告らの本件控訴をいずれも棄却。
- 本訴:原判決と同様に、一審原告の請求は原判決主文第1項及び第2項掲記の限度で認容し、その余は棄却すべきものとした。一審被告ライフテックについては、特許権の侵害を行ったとも、一審被告山創による特許権侵害を幇助したとも認められないとした。
- 反訴(一審原告の控訴に基づき原判決を変更。一審被告らの控訴は棄却):主文で、一審原告に対し、一審被告ライフテックへ165万円、一審被告山創へ33万円(いずれも令和6年6月1日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を付加)の支払と、原判決別紙文言目録記載1及び3の各文言を第三者に告知してはならないことを命じ、一審被告らのその余の請求をいずれも棄却した。
- 文言1のうち「(株)ライフテックには特許侵害の疑いありと特許事務所より通告していました。ところが、あちこちで特許侵害が見受けられたので特許侵害訴訟を行うものです。」との記載、文言3のうち「今回の訴訟で勝利すればサーモバリアを使用している全ての会社が特許侵害の可能性がある事になり、大企業等からは排除されること大になる」との記載等を虚偽の事実の告知に当たるとした。一方、文言2は「営業上の信用を害する虚偽の事実の告知には該当しない」とした。
- 一審被告山創との関係では、室内天井に両面テープを使用して直貼りした行為が特許権を侵害する旨の記載は「虚偽には当たらない」が、壁への直貼りによる侵害とは認められないので、上記記載は虚偽の事実を含むとした。
- 加盟店に対し仮に第三者への開示を禁止した上で配布されたものであるとしても、それ以外の者に開示され内容が伝播される可能性は十分にあるとして、告知又は流布に当たるとした。また、「見受けられた」「可能性がある」などの文言を一部使用していても、記載内容全体、フォントの大きさや色などを総合すると、一審被告らが特許権を侵害した旨を読み手に強く印象付けるものとした。告知は「特許権の正当な権利行使の一環としてなされたものであるとは認められない」とした。
- 損害額は、一審被告ライフテックにつき無形損害150万円と弁護士費用15万円、一審被告山創につき無形損害30万円と弁護士費用3万円。謝罪広告による信用回復措置は「命じる必要があるとはいえない」とした。
実務上のポイント
特許権者が侵害訴訟の提起を取引先・加盟店へ電子データで知らせる場合、相手方の行為の範囲(どの施工方法か等)や訴訟の影響(全ての会社が特許侵害の可能性があることになる旨等)を誇張すると、訴訟の一部で侵害が認められた相手方との関係でも虚偽の事実の告知とされ得ることを示した事例です。仮に開示を禁止した上での配布であっても、内容が伝播する可能性は十分にあるとして「告知又は流布」に当たるとした点も、通知文の作成実務で参考になります。
出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97150/detail7/index.html
判決文PDF:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97150.pdf
2 名古屋高等裁判所民事第3部 令和8年9月11日判決(令和8年(行コ)第11号 行政文書不開示決定取消請求控訴事件。原審 名古屋地方裁判所令和4年(行ウ)第121号)
事案の概要
控訴人が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」)3条に基づき、亡Aに関する死刑執行上申書の一切及び同書の添付資料の一切(本件対象文書)の開示を請求したところ、法務大臣から、存否を答えることにより法5条1号及び4号所定の情報が開示されることと同様の効果が生じることを理由として、法8条に基づき存否を明らかにしないで不開示とする決定(令和3年6月16日付け)を受けたため、その取消しを求めた。第1審は請求を棄却。差戻し前の控訴審も請求を棄却し、追加された開示決定の義務付けの訴えを却下したが、本判決の摘示によれば、最高裁判所は、上告受理申立てについては受理しない旨の決定をし、上告については、差戻し前の控訴審が本件対象文書の存否を答えるだけで法5条1号及び4号所定の不開示情報を開示することとなるかについて判断をしていないとして差戻し前の控訴審判決を破棄し、名古屋高裁に差し戻した。
判断の要旨
主文:「本件控訴を棄却する。」「控訴人の当審における追加請求に係る訴えを却下する。」
- 法5条1号:本件対象文書に記載される情報は法5条1号本文の個人情報に当たるとした。開示請求が亡A及びその妹で再審請求人であるBの希望に沿うもので実質的に自己情報と同視できるとの控訴人の主張に対しては、開示の可否は文書に記載されている情報の内容、性質により判断することが予定されており、「開示請求者の個別的事情により左右されるものとはいえない」とした。同号ただし書ロ(人の生命、健康、生活又は財産を保護するため公にすることが必要と認められる情報)の主張も、文書の存在を公にすることが遺族らの生命、健康、生活又は財産の保護に「直ちに結びつくものとはいえない」として退けた。
- 法5条4号:行政機関の長の判断が「社会通念上著しく妥当性を欠くなど、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる必要がある」とし、未執行の死刑確定者が刑の執行時期等を憶測するなどして混乱を生じ、収容業務に支障を及ぼすおそれがあるとの処分行政庁の判断に裁量権の逸脱ないし濫用があるとは認められないとした。
- 法8条:控訴人は、死刑執行上申書は刑訴法475条2項等により死刑判決確定の日から6か月以内に必ず提出されるから文書の存在は明らかであると主張したが、判決は、執行事務規程9条に上申の具体的時期は明記されていないことから上記期限の定めは「訓示的規定」と解されること、同項ただし書で再審請求等の期間は算入しないとされていることから、「6か月以内に必ず法務大臣に提出されるものとまでいうことはできない」とした。そのうえで、存否を明らかにすることは、亡Aに対する死刑執行の手続がどの審査段階にあるかという手続経過を明らかにすることとなり、法5条1号及び4号の不開示情報を開示することにほかならないとして、本件不開示決定を適法とした。
- 追加された開示決定の義務付けの訴えは、行政事件訴訟法37条の3第1項2号の訴訟要件を欠き不適法とした。
実務上のポイント
最高裁による破棄差戻し後の控訴審で、死刑執行上申書について存否応答拒否(情報公開法8条)を適法とした事例です。情報公開法に基づく請求では、死刑確定者の親族等の依頼によるものであっても、請求者の個別的事情は開示の可否を左右しないとした点が参考になります。
出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97154/detail4/index.html
判決文PDF:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97154.pdf
3 和歌山地方裁判所刑事部 令和8年8月31日判決(令和8年(わ)第57号 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律違反被告事件)
事案の概要
公益財団法人B事務局総務管理課課長兼C総務課課長の被告人Aが、株式会社Eの会長である被告人Dから、指名競争入札に先立ち内規等により部外者への漏えいが禁止されている指名業者等を漏示されたい旨の不正の請託を受け、現金50万円の供与を2回受けた(被告人Dはこれを供与した)として起訴された事案。争点は、被告人Aが一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(令和4年法律第68号による改正前のもの。以下「法」)337条1項が引用する334条1項7号の「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」に当たり、「その職務に関し」財産上の利益を収受したといえるかである。
判断の要旨
主文:「被告人両名は、いずれも無罪。」
- 法334条1項7号の「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」(7号使用人)は、会社法967条1項が引用する同法960条1項7号等と同様、ある種類又は特定の事項に関し包括代理権が授与されていることが必要と解した。
- 被告人Aは、内規上(本件当時は財団内部の実務慣習であり、内規として機能していたことに争いはない)、課長として500万円未満の委託契約やそのための入札を専権で行う権限を与えられ、この限度で部分的な包括代理権を与えられていたと認めた。他方、本件入札の落札価格(契約金額)は契約期間の5年間合計で5億6700万円であった。
- 法337条1項は、7号使用人については「部分的包括代理権が与えられた範囲の職務行為に限ってその公正保持を保護法益とするもの」と解され、被告人Aが担当したのはこの範囲を超える委託契約の財団内部における企画・立案事務にすぎないから、「内規に反して本件入札に係る秘密事項を漏示したこと自体は違法であるにしても、その謝礼として行われた本件賄賂の提供・収受が、7号使用人である被告人Aの職務に関して行われたとはいえない」として、刑事訴訟法336条により無罪とした。
実務上のポイント
一般法人法上の贈収賄罪で、使用人の権限(内規上の専決金額)の範囲を超える案件について「職務に関し」が否定された事例です。会社法上の同旨規定(967条1項・960条1項7号)と同様に包括代理権を要件とした点は、法人の内部権限規程の設計・運用にも関わり得ると考えられます。
出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97147/detail4/index.html
判決文PDF:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97147.pdf
4 鳥取地方裁判所刑事部 令和8年8月6日宣告(令和8年(わ)第35号、第47号 贈賄被告事件)
事案の概要
米子市が発注した米子市都市公園(a区域)の指定管理業務を受注し、猿の飼育施設を含む同都市公園の施設、設備及び器具の維持管理に関する業務等を行うA共同事業体の代表者株式会社Bの代表取締役であった被告人が、米子市議会議員であった分離前相被告人Cに対し、第1として、令和6年6月頃、電話で、同議会において猿の頭数を削減するよう発言するなどの請託をした上、同月26日に謝礼として現金100万円を供与し、第2として、令和7年6月30日、有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼として現金100万円を供与した事案。
判断の要旨
主文:「被告人を懲役1年に処する。」「この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。」(求刑 懲役1年)
- 法令の適用:判示第1は令和4年法律第68号(整理法)441条1項により同年法律第67号2条による改正前の刑法198条、判示第2は刑法198条。判示第1の罪につき懲役刑、判示第2の罪につき拘禁刑をそれぞれ選択し、整理法451条1項前段、刑法45条前段、整理法451条2項、刑法47条本文、整理法444条により「重い判示第1の罪の刑に加重」した。刑の全部執行猶予は刑法25条1項。
- 量刑:賄賂は高額であり、自社の利益を優先した意思決定は非難を免れないとしつつ、米子市においても猿の頭数を削減する必要性を認めていたこと、賄賂は「いずれも上記議員の側から要求された」こと、考慮すべき前科がないこと、事実関係を認め反省の態度を示していること、報道等による社会的不利益を考慮した。
実務上のポイント
地方議員に対する贈賄の量刑事例です。改正前刑法が適用される罪(懲役刑を選択)と現行刑法が適用される罪(拘禁刑を選択)が併合罪となった場合に、整理法の規定を用いて処理した法令の適用例として参考になります。
出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97113/detail4/index.html
判決文PDF:https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97113.pdf
出典
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97150/detail7/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97150.pdf
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97154/detail4/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97154.pdf
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97147/detail4/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97147.pdf
- https://www.courts.go.jp/hanrei/97113/detail4/index.html
- https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97113.pdf

