【判例速報】福岡地裁小倉支部・技能実習生の妊娠と技能実習実施者・監理団体の調査説明義務違反ほか計3件(2026年10月11日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの3件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件)。

※裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。いずれも裁判年月日から2週間を超えていますが、新着一覧に掲載され当サイト未報告のため掲載しました。

※「」内は判決文からの引用です(裁判所サイトの表示からの引用はその旨を記しています)。

1 福岡地裁小倉支部第2民事部 令和8年8月4日判決(令和4(ワ)767 未払賃金等請求事件)

  • 結論(一部認容):主文①「被告社会福祉法人Bは、原告に対し、45万1626円及びうち37万6355円に対する令和3年9月1日から、うち7万5271円に対する同月26日から各支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。」
  • 主文②「被告社会福祉法人B、被告公益財団法人C、被告E及び被告Fは、原告に対し、連帯して、269万2980円及びこれに対する令和3年8月30日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。」
  • 主文③「原告のその余の請求をいずれも棄却する。」
  • 主文④(訴訟費用):原告に生じた費用の10分の5と、各被告に生じた費用の一部(被告Bは7分の3、被告C・被告E・被告Fは各9分の5)を原告の負担とし、原告に生じた費用の一部(被告Bは10分の2、被告C・被告E・被告Fは各10分の1)と各被告に生じた費用の残り(被告Bは7分の4、その他は各9分の4)をそれぞれの被告の負担とする。
  • 主文⑤「この判決は、第1、2項に限り、仮に執行することができる。」
  • 当事者:「原告は、フィリピン国籍の女性である。」被告Bは特別養護老人ホーム(被告施設)を「運営する社会福祉法人であり、被告Cの組合員であった。」被告Cは「技能実習法の監理許可を得て、技能実習の適正な実施について確認、指導などの実習監理業務を行う義務を負う公益財団法人である。」「被告Eは、令和3年4月当時、被告Cの理事を務めていた。」被告Fは、原告の来日手続等に関与した送出機関の「代表者であった。」
  • 事案:「本件は、原告が、自身の妊娠を理由に被告Bから退職を強要され、その余の被告らもこれに同調して原告を退職に追い込んだなどと主張して、以下の各請求をした事案である。」原告は、被告Bに未払賃金45万1626円等を、被告らに連帯して共同不法行為に基づく損害賠償「599万8164円」等を求めた。原告は令和元年「10月15日から被告施設で勤務を開始した」。「令和3年4月25日頃、自身の妊娠を自覚し」、「令和3年8月30日付で」被告Bを退職する旨記載した技能実習の中断理由書を外国人技能実習機構に提出した。
  • 判断(賃金):「被告Bは、原告に対し、未払賃金45万1626円の支払義務を負う。」また、「被告Bは、原告の妊娠を理由として技能実習法及び男女雇用機会均等法で禁止される不利益な取り扱いをしたと認められ、このような取り扱いを容認できる特段の事情は認められない。」とした。
  • 判断(被告B・被告C=「被告Bら」):技能実習実施者及び監理団体は、「技能実習継続の可否、技能実習計画の変更や在留期間の更新、産休等の取得等に必要な手続の調査を行い、その調査に基づいて上記手続等について説明し」、「技能実習生が技能実習の継続を希望する場合には、技能実習が継続できるよう必要な措置を取る義務を負っていると解するのが相当である。」とした。そのうえで、被告Cの代表者Dが「原告の希望に沿って技能実習を継続することが可能であるかどうかや、そのための手続、出産手当金等の行政手続などについて調査を全く行わなかった。」等として、「被告Bらは原告に対して前記調査及び説明義務違反について不法行為責任を負う。」とした。
  • 判断(被告E):被告Eの電話での発言やメッセージ(「原告のことを考えて中絶すべきである」等)を認定し、「前記被告Eの言動は、社会的相当性を著しく欠く方法で原告の妊娠・出産の選択の権利を侵害するものであり、不法行為が成立する。」とした。
  • 被告Fの責任、関連共同性、損害額(269万2980円)の内訳:未精査(判決文PDFの該当部分を読めず)。
  • 実務上のポイント:技能実習生が妊娠した場合に、技能実習実施者と監理団体が、技能実習継続の可否や必要な手続を調査・説明し、継続を希望する場合には継続のため必要な措置を取る義務を負うとし、その違反について不法行為責任を認めた事例。監理団体の理事であった被告Eの言動についても不法行為の成立を認めている。
  • 出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

2 京都地裁第3民事部 令和8年8月6日判決(令和7(行ウ)31 建築確認取消等請求事件)

  • 結論:主文1「原告らの訴えのうち、被告ERIが令和6年6月21日付けで行った三菱地所レジデンス株式会社(関西支店)に対する建築確認(第ERI-24007455号)の取消しを求める部分をいずれも却下する。」
  • 主文2「原告らの被告ERIに対するその余の請求をいずれも棄却する。」主文3「原告らの被告市に対する訴えをいずれも却下する。」主文4「訴訟費用は、原告らの負担とする。」
  • 事案:「三菱地所レジデンス株式会社(以下「本件会社」という。)は、京都市内に存する門跡寺院である聖護院の門前に、地上5階建ての共同住宅(以下「本件建物」という。)を建築する計画(以下「本件計画」という。)を立てた。」原告らは、被告ERI(建築確認検査機関)の建築確認(令和6年6月21日付け)と変更確認処分(令和7年1月29日付け)の取消し、及び「裁決行政庁が令和7年6月27日付けで行った原告らの審査請求を棄却するとの裁決」の取消し(被告市に対する請求)を求めた。
  • 判断(当初の建築確認):「建築確認変更処分がされた場合には、既存の建築確認は、その効力が消滅すると解するのが相当である。」として、「本件建築確認は、既にその効力が消滅していると認められるから、その取消しを求める訴えの利益は認められない」とした。
  • 判断(変更確認):都市計画法29条1項違反、一建築物一敷地の原則(建築基準法施行令1条1項1号〔判決の争点の見出しの表記。判決本文では「1条1号」〕)違反、避難経路に関する規定(同令120条、121条)違反、景観法及び京都市市街地景観整備条例違反の各主張を退けた。例えば「本件計画は、開発行為となる土地の区画の変更及び性質の変更には当たらないというべきである。」「本件建物は「一の建築物」に該当するものと認められる。」とし、また「景観法及び京都市市街地景観整備条例は建築基準関係規定ではなく、建築確認検査機関の判断対象ではない」とした。
  • 判断(裁決):「原告らの本件建築確認等の取消請求がいずれも認められない以上、仮に本件裁決に理由付記の不備があっても、これを取り消す意味はないから、本件裁決の取消しを求める訴えの利益はないというべきである。」
  • 実務上のポイント:変更確認処分がされたことで当初の建築確認の効力が消滅したとして、その取消しの訴えの利益が否定された。景観法・同条例違反は建築確認検査機関の判断対象ではないとされた点も、建築確認の取消しを争う際の主張の組立てに影響する。
  • 出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

3 知財高裁第4部 令和8年9月30日判決(令和8(行ケ)10029 審決取消請求事件。発明の名称「樹脂製食器を成形する製造方法」)

  • 結論:主文「原告の請求を棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」原告は信濃化学工業株式会社、被告は三信化工株式会社。
  • 事案:原告は、「特許庁が無効2025-800038号事件について令和8年3月23日にした審決を取り消す。」ことを求めた(特許第4683413号。審決は「本件審判の請求は、成り立たない。」)。主な争点(裁判所サイトの表示)は「特許請求の範囲の記載要件(サポート要件、明確性)」。訂正後の請求項1は、「内表面積の30%以上に相当する金型表面の全面に」凹凸を形成したしぼ加工金型を用い、「射出成形法によって皮しぼ又は梨地と呼ばれる凹凸を備えた樹脂製食器を成形する製造方法。」である。
  • 判断:サポート要件について、「実施例1において「内表面積の30%に相当する金型表面に凹凸を備える」場合についての具体的確認がされていないからといって、本件各発明の課題(前記1⑶)が解決できることを認識できないとは認められない。」とした。明確性要件について、「特許請求の範囲に凹凸の密度又は個数が記載されていないとしても、その記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。」とした。結論として「以上のとおり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。」
  • 実務上のポイント:数値限定(内表面積の30%以上)の下限に当たる場合について実施例での具体的確認がなくても、サポート要件違反とはされなかった事例。
  • 出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。