【判例速報】知財高裁・YouTube動画の無断改変利用と著作者人格権/東京高裁・神栖市長選の当選無効裁決ほか計4件(2026年10月9日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの4件を取り上げます(うちインターネット関連分野に該当するものは1件)。

※裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。2〜4件目は裁判年月日が2週間を超えていますが、新着一覧に掲載され当サイト未報告のため掲載しました。

※判決文の引用は「」内が原文です。

1.知財高裁・ユーチューブ動画の無断改変利用と名誉声望保持権(令和8年9月30日)

  • 裁判所:知的財産高等裁判所 2部
  • 事件番号:令和8(ネ)10043 不法行為(著作権侵害)に基づく損害賠償請求控訴事件(原審:横浜地方裁判所 令和6(ワ)1975)
  • 主文:「1審原告及び1審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。」

事案の概要
「動画共有サイト(ユーチューブ)で動画(原告各動画)を公開している1審原告」が、1審被告が原告各動画を無断で改変し、ユーチューブで公開した自身の動画(被告各動画)に利用したと主張して、著作権・同一性保持権の各侵害及び著作権法113条11項所定のみなし著作者人格権侵害による不法行為に基づき、損害賠償金207万0379円(逸失利益7万0379円、同一性保持権侵害による慰謝料75万円、名誉声望保持権侵害による慰謝料125万円)等を求めた事案です(控訴の趣旨では「187万0379円」)。原審は、請求を「著作者人格権侵害による慰謝料20万円」及び遅延損害金の限度で認容し、双方が控訴しました。

判断の要旨
控訴審は原判決の判断を引用し、「当裁判所も、1審原告の請求は、慰謝料20万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。」としました。被告各動画について「1審原告を侮辱したり、その人格的価値についての社会的評価を低下させたりする内容を含む」と認定しています。1審被告の主張のうち、別件訴訟との関係で民事訴訟法142条(重複する訴えの提起の禁止)に反するとの主張は「民事訴訟法142条に反するとはいえない」、権利濫用の主張は「権利の濫用に該当するとまでは認められない」として退けました。原審は、引用の目的上正当な範囲内で行われたとも、正当防衛が成立するともいえないと判断しています。

実務上のポイント
動画共有サイト上での他人の動画の無断改変・利用について、著作者人格権侵害(みなし侵害を含む)による慰謝料を認めた原審判断が控訴審でも維持された事例です。ユーチューバー間の紛争の参考になります。

出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

2.東京高裁・神栖市長選挙のくじによる当選人と当選無効裁決(令和8年9月3日)

  • 裁判所:東京高等裁判所 第14民事部
  • 事件番号:令和8(行ケ)50001 裁決取消請求事件
  • 主文:「原告の請求をいずれも棄却する。」

事案の概要
令和7年11月9日執行の茨城県神栖市長選挙で、原告と石田進の得票数が「石田1万6724票、原告1万6724票で同数となり」、くじの結果、原告が当選人とされました。審査申立てに対し、被告は令和8年4月28日、原告の当選を無効とする裁決(裁第2号・裁第3号)をしました。原告が公職選挙法207条1項に基づき各裁決の取消しを求めました。被告の名称は今回閲覧した判決文の範囲では確認できていません(未確認)。

判断の要旨
争点は、「だんごさん」「まんじゅうや」と記載された票が原告に対する投票として有効か等です。裁判所はこれらの票を「「何人を記載したかを確認し難いもの」(法68条1項8号)として無効」とし、得票数を「石田1万6723票、原告1万6722票」と認定して、「原告の当選を無効とした本件裁決は適法である。」としました。

実務上のポイント
候補者の通称・屋号を記載したとされる票の効力判断の事例です。同数・くじによる当選が、票の効力判断により覆った点が注目されます。

出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

3.東京高裁・新型コロナワクチン供給契約書の全部不開示を適法と判断(令和8年8月6日)

  • 裁判所:東京高等裁判所 第24民事部
  • 事件番号:令和7(行コ)336 行政処分取消請求控訴事件(原審:東京地方裁判所 令和5(行ウ)255)
  • 主文:「原判決を取り消す。」「被控訴人の請求を棄却する。」

事案の概要
被控訴人は、令和5年1月31日付けで、厚生労働大臣に対し、情報公開法に基づき、国がファイザー社等との間でそれぞれ締結した新型コロナウイルスワクチンの供給に関する契約書の開示を請求しましたが、同年3月3日付けで、情報公開法5条2号イ所定の不開示情報が記録されているとして全部不開示決定を受けました。原審において、控訴人は5条6号ロ所定の不開示情報の主張を追加しました。原審は「本件不開示決定は部分開示を行わなかった点において違法である」として請求を認容しました。

判断の要旨
控訴審は、「本件文書に記録された情報は、その全部が情報公開法5条6号ロ所定の不開示情報に当たると認められる。」とし、同法6条1項の部分開示についても「本件不開示決定に部分開示を行わなかった違法があるとはいえない。」と判断して、「その余の点について判断するまでもなく、本件不開示決定は適法である。」としました。

実務上のポイント
契約書の章立て等の構成や概括的な記載項目も含めて5条6号ロ該当性を認めた判断であり、国の契約文書に対する開示請求・部分開示の主張の検討に影響します。

出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

4.鹿児島地裁・中学校教員の個別指導の違法と慰謝料(自死の予見可能性は否定)(令和8年8月26日)

  • 裁判所:鹿児島地方裁判所 民事2部
  • 事件番号:令和5(ワ)680号 損害賠償請求事件
  • 主文:①被告は原告X1に対し33万円及び平成30年9月3日から支払済まで年5パーセントの割合による金員を支払え。②原告X1のその余の請求並びに原告X2及び原告X3の請求をいずれも棄却する。(ほか訴訟費用・仮執行宣言)

事案の概要
G中学校(鹿児島市立)の生徒(本件生徒)が平成30年9月3日に自死したことについて、本件生徒の母であり唯一の相続人である原告X1と、兄である原告X2・X3が、教員の不適切な指導により本件生徒が自死したとして、G中学校の設置者である被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めました(請求額は原告X1につき6140万6492円等)。

判断の要旨
職員室でのY教諭による個別指導について「正当な指導の範囲を超えたものとして、違法と評価するのが相当である。」としました。他方、「Y教諭が本件生徒の自死を予見することができたとは認められない。」として、「本件生徒が死亡したことを前提とした本件生徒及び原告らの損害を認めることはできない。」としました。本件指導によって本件生徒が受けた精神的苦痛の慰謝料として30万円、弁護士費用として3万円を認めています。結論部分は「原告X1の請求は、33万円及び平成30年9月3日から支払済みまで年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。」です(同文中に根拠条文の明示はありません)。

実務上のポイント
指導の違法性を認めつつ、自死の予見可能性を否定して死亡を前提とする損害を認めなかった事例です。学校事故・指導死事案における予見可能性の判断の参考になります。

出典:裁判所ウェブサイト(裁判例詳細)/判決文PDF

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。