養育費の金額はどう決まり、払われないときはどう回収する?弁護士が分かりやすく解説します

Q 離婚のときに、養育費を月4万円と決めました。半年前から振り込みが止まっています。相手は転職したようで、今の勤務先が分かりません。そもそも金額が適正だったのかも気になります。どうすればよいでしょうか。

A まず家庭裁判所の履行勧告が使えます。費用はかかりません。強制的に取り立てるには差押えが必要です。相手の勤務先は、裁判所の情報取得手続で分かることがあります。金額は、裁判所が公表する算定表が参考になります。

養育費のご相談では、次のようなお悩みをよく伺います。

  • 自分の場合、いくらが相場なのか分からない
  • 口約束だけで離婚したので、請求できるのか不安
  • 支払が止まったが、何から手を付ければよいか分からない
  • 相手の勤務先や口座が分からない
  • 手続にいくらかかるのかが分からない

この記事で分かることは、次のとおりです。

  • 養育費の金額が何で決まるか
  • 取決めがないまま離婚した場合の請求方法
  • 支払が止まったときの手続の順番
  • 給料を差し押さえられる範囲
  • 勤務先や口座を調べる方法

養育費の金額はどう決まるか

出発点は、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」です。家庭裁判所の調停や審判でも、この表が広く用いられています。

算定表は、平成30年度司法研究の報告に基づくものです。この報告は令和元年12月23日に公表されました。裁判所のウェブサイトで、誰でも見ることができます。

算定表は何によって金額が変わるか

算定表で金額を左右するのは、次の要素です。

  • 父母それぞれの年収
  • それぞれが給与所得者か、自営業者か
  • 子の人数(1人から3人までの表が用意されています)
  • 子の年齢(0歳から14歳、15歳以上の2区分)

養育費の表は、この組み合わせで9種類が用意されています。縦軸と横軸に父母の年収を当てはめて読みます。

算定表どおりにならないのはどんなときか

算定表は、標準的な支出を前提に作られています。私立学校の学費や高額な医療費は、別に考慮されることがあります。

どこまで上乗せされるかは、事案ごとの判断です。表の金額が常にそのまま採用されるわけではありません。

取決めをしないまま離婚した場合も請求できるか

請求できます。2026年(令和8年)4月1日から、法定養育費の制度が始まりました。根拠は民法766条の3です。

協議離婚の際に、養育費の分担を決めなかった場合が対象です。取決めがなくても、法律上当然に請求権が生じます。

いくら、いつまで請求できるか

額は、1か月あたり2万円に子の数を掛けた額です。令和7年法務省令第56号が、この額を定めています。

支払は離婚の時から始まります。そして、次のうち最も早く来る日まで続きます。

  • 父母が養育費の取決めをした日
  • 家庭裁判所の養育費の審判が確定した日
  • 子が18歳に達した日

相手が支払を拒める場合はあるか

あります。支払能力を欠くために支払えない場合などです。

法務省のパンフレットは、生活保護を受給している場合を例に挙げています。支払によって自らの生活が著しく窮迫する場合も同様です。

法定養育費と、父母の取決めによる養育費を比べた表です。

項目法定養育費取決めによる養育費
根拠民法766条の3父母の協議、調停、審判
金額月2万円×子の数事案ごと(算定表が目安)
始まる時期離婚の時取決めで定めた時
終わる時期取決めの日、審判確定の日、子が18歳に達した日のうち最も早い日取決めで定めた時
対象協議離婚で取決めをしなかった場合取決めをした場合

話し合いがまとまらないときは何をするか

家庭裁判所に、養育費請求調停を申し立てます。

どこに申し立て、いくらかかるか

裁判所のウェブサイトは、次のように案内しています。

  • 申立先は、相手方の住所地の家庭裁判所
  • 当事者が合意で定めた家庭裁判所でもよい
  • 収入印紙は、子1人につき1200円分
  • 郵便切手が必要(額は裁判所ごとに異なる)
  • 主な書類は、申立書、子の戸籍謄本、申立人の収入資料、事情説明書

調停がまとまらないとどうなるか

自動的に審判の手続が始まります。裁判官が一切の事情を考慮して判断します。

支払が止まったとき、最初にできることは何か

家庭裁判所の履行勧告です。費用はかかりません。書面でも口頭でも申し出ることができ、電話でも受け付けられます。

ただし、強制力はありません。裁判所も「勧告に応じない場合に履行を強制することはできません」と説明しています。

履行勧告と履行命令はどう違うか

家庭裁判所を使った2つの働きかけを比べた表です。

項目履行勧告履行命令
根拠家事事件手続法289条家事事件手続法290条
内容取決めを守るよう促す期限を定めて履行を命じる
費用かからないかかる
従わない場合履行を強制できない過料の制裁を受けることがある
使える場面家庭裁判所の調停・審判等で定まった事項家庭裁判所の調停・審判等で定まった金銭の支払等

公正証書で決めた養育費には、履行勧告を使えません。裁判所は、履行勧告の対象を家庭裁判所で定まった事項に限っています。

強制的に回収するにはどうするか

相手の給料や預貯金を差し押さえます。継続して回収できるため、給料の差押えが中心になります。

差押えには何が必要か

従来は債務名義が必要でした。調停調書、審判書、強制執行認諾文言の付いた公正証書などです。

2026年4月1日からは、子の監護の費用の債権に先取特権が認められました。根拠は民法306条3号と308条の2です。

法務省のパンフレットは、取決めの際に父母間で作成した文書に基づいて差押えを申し立てられる、と説明しています。

先取特権で扱える額には上限があります。子1人あたり月8万円です(令和7年法務省令第56号)。

給料はいくらまで差し押さえられるか

通常の債権では、原則として手取りの4分の1までです(民事執行法152条1項2号)。

養育費などの扶養義務に基づく請求では、2分の1まで広がります(同条3項)。手取りが高額な場合は、さらに範囲が広がることがあります。

将来の分もまとめて差し押さえられるか

できます。一部に不払いがあれば、まだ期限の来ていない分も対象にできます(民事執行法151条の2)。

毎月の不払いごとに申し立てる必要はありません。一度の手続で、その後の給料から回収を続けられます。

差押え以外の方法はあるか

間接強制があります。支払わない場合に金銭の支払を命じ、心理的に履行を促す方法です(民事執行法167条の15)。

また2026年4月からは、執行手続の負担を軽くする仕組みも設けられました。法務省はこれを「ワンストップ化」と説明しています。

相手の勤務先や口座が分からないときはどうするか

裁判所の「第三者からの情報取得手続」を使います。裁判所が、市町村や銀行などから情報を取り寄せる手続です。

取得できる情報の種類と、財産開示手続を先に行う必要があるかを比べた表です。

情報の種類主な提供者財産開示を先に行う必要根拠
不動産登記所必要民事執行法205条
勤務先市町村、日本年金機構など必要民事執行法206条
預貯金銀行など不要民事執行法207条
株式・国債など証券会社など不要民事執行法207条

勤務先の情報は、誰でも取れるわけではありません。養育費などの扶養義務に係る請求権を持つ人などに限られます。

子の監護の費用について先取特権を持つ人も、申立てができます。

財産開示を無視されたらどうなるか

財産開示期日に正当な理由なく出頭しない場合、刑事罰の対象になります(民事執行法213条1項)。虚偽の陳述をした場合も同じです。

よくある質問

養育費はいつまで払うのが普通ですか

取決めや審判で決まります。18歳、20歳、大学卒業時など、事案によって異なります。

成年年齢は18歳です(民法4条)。もっとも、それだけで終期が18歳になるわけではありません。

一度決めた養育費は、あとから変えられますか

事情が変わった場合は、変更を求めることができます(民法880条)。

失業、転職、再婚、子の進学などが例です。話合いがつかなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。

相手が再婚したら養育費は止まりますか

再婚しただけでは、当然には止まりません。

子が再婚相手と養子縁組をした場合は、扶養義務の関係が変わります。金額の見直しが問題になることがあります。

過去の未払い分は、何年前までさかのぼれますか

支払期が来た分の消滅時効は、原則として5年です(民法166条1項1号)。

調停調書などで確定した分は、10年になる場合があります(民法169条1項)。ただし、確定の時に弁済期が来ていない分は対象外です(同条2項)。

まとめ

  • 金額の出発点は、裁判所の算定表(令和元年12月23日公表の司法研究報告に基づく)
  • 取決めがなくても、2026年4月から法定養育費を請求できる(月2万円×子の数)
  • 支払が止まったら、まず履行勧告(無料。ただし強制力はない)
  • 強制的な回収は差押え。給料は2分の1まで、将来の分もまとめて対象にできる
  • 勤務先や口座が分からないときは、第三者からの情報取得手続
  • 2026年4月から先取特権が認められ、取決めの文書で差押えを申し立てられる

養育費の回収は、手続の選び方や順番で結果が変わることがあります。相手の資力や資料の有無によっても、取るべき方法は異なります。

ご自身の事案でどの手続が使えるか迷われたときは、弁護士にご相談ください。当事務所でも、静岡市清水区を中心にご相談をお受けしています。

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※本記事は一般的な法律解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。具体的な事案は弁護士にご相談ください。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。