【判例速報】最高裁・著作物に当たらないバンドスコアの模倣と不法行為/東京高裁・贈賄の通報目的での社内資料持出しほか計4件(2026年10月10日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの4件を取り上げます(うちインターネット関連分野に該当するものは1件:ウェブサイトでの無料公開・広告料収入を伴う模倣行為に関する最高裁判決)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。引用部分(「」内)は判決文からの引用です。

1 最高裁第二小法廷 令和8年10月9日判決(令和6(受)2078 損害賠償請求事件)

  • 結論:主文「本件上告を棄却する。」「上告費用は上告人らの負担とする。」原審は東京高裁令和6年6月19日判決(令和3(ネ)4643)(裁判所サイトの詳細ページの記載)。
  • 判示事項(裁判所サイト):「著作権法2条1項1号にいう著作物に当たらないバンドスコアを模倣するなどした行為が不法行為を構成するとされた事例」
  • 事案:被上告人は「自ら採譜をしてバンドスコアを制作し、販売する事業を営む楽譜出版社」。上告人は株式会社GLNET(上告人会社)と「上告人会社の代表取締役である上告人Y2」。上告人会社は「少なくとも約6年半にわたり、579曲にも及ぶ本件楽曲について」、上告人Y2が事前に購入した被上告人スコアを担当者に渡し、「自ら採譜をすることなく被上告人スコアの全体を細部まで模倣するという方法で上告人スコアを制作して、これを本件サイトにおいて無料で公開し、広告料収入を得ていた」。
  • 判断:著作物に当たらないものの利用行為は、「同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない」(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)としつつ、「社会通念上自由競争の範囲を逸脱して被上告人の営業を妨害し、その営業上の利益を侵害するものということができるときは」特段の事情があり不法行為を構成するとした。本件では、多大な費用等の負担を免れたこと、上告人スコアが「一般の利用者にとっては被上告人スコアと同程度の品質を有すると考えられる」こと、無料公開期間中に被上告人の売上げが大きく減少した期間があったこと等を総合し、本件行為は「著しく不公正な手段を用いて被上告人の営業の継続を困難にさせる競業行為」であるとして不法行為の成立を認めた原審の判断を是認した。裁判官全員一致。裁判官尾島明、同高須順一の各補足意見がある(補足意見の内容は本稿では扱わない)。
  • 実務上のポイント:著作物性が否定される成果物であっても、全体を細部まで模倣してウェブサイトで無料公開し広告料収入を得る行為について、最高裁が、営業上の利益の侵害として不法行為の成立を認めた原審の判断を是認した事例である(判示事項上「事例」とされている)。
  • 出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97135/detail2/index.html / 判決文PDF https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97135.pdf

2 東京高裁第2民事部 令和8年9月3日判決(令和8(ネ)1067 損害賠償請求控訴事件。原審:東京地裁 令和6(ワ)18712)

  • 結論:主文「本件控訴を棄却する。」「控訴費用は控訴人の負担とする。」
  • 事案:眼内レンズの製造販売等を行う会社である控訴人が、元従業員の被控訴人に対し、被控訴人が「令和3年10月から令和4年3月までの間」に社内資料(「医師の個人情報が記載された顧客管理シート等の機密情報を含む。」)を貸与パソコンにダウンロードし、私物のUSBメモリに保存して社外に持ち出し、「NHKに控訴人の機密情報を提供した」ことが不法行為又は雇用契約上の債務不履行に当たると主張して、損害賠償金「4788万1500円」等を求めた。
  • 原審:「被控訴人がNHKに控訴人の機密情報を提供したと認めることはできず」、持出し行為は「控訴人の贈賄行為につき捜査機関等に通報する目的でされたと認められるから、公益通報として違法性が阻却される」として請求を棄却。
  • 判断:「当裁判所も、控訴人の請求は理由がないと判断する。」被控訴人は、控訴人の贈賄罪に該当する行為に関する資料を発見し、「その刑事責任の追及を目的として、捜査機関への情報提供をするために控訴人の社内資料を持ち出したものと認められ」、「控訴人や上司に対する反感」が動機の一因となっていた可能性があるとしても、「被控訴人の通報が不正な目的によるものであったとはいえず、被控訴人の行為の違法性阻却が否定されるものではない」とした。持ち出した情報に通報と無関係な情報が多数含まれるとの控訴人の主張に対しても、「そのことから直ちに公益通報が成立しないとして違法性を認めることは相当ではない」とした。
  • 実務上のポイント:個人情報を含む社内資料の私物USBメモリへの保存・持出しについて、捜査機関への通報目的が認められるとして違法性阻却を認め、会社の損害賠償請求を棄却した原判決を維持した事例。企業の情報管理・内部通報対応の場面で参考になる。
  • 出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97128/detail4/index.html / 判決文PDF https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97128.pdf

3 福岡地裁第5民事部 令和8年9月3日判決(令和6(ワ)2339 雇用契約上の地位確認等請求事件)

  • 結論(一部認容):主文は、①原告が被告に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認、②被告は原告に対し令和6年2月から本判決確定の日まで毎月24日限り34万8850円及び遅延損害金(年3%)を支払え、③同期間、毎年6月30日及び12月10日限り78万7524円及び遅延損害金(年3%)を支払え、④「原告のその余の請求をいずれも棄却する。」、⑤訴訟費用は20分し、その3を原告、その余を被告の負担、⑥第2項及び第3項に限り仮執行可。
  • 事案:郵便配達業務に従事していた原告が、酒気帯び運転の状態で人身事故を起こしたことを理由に懲戒解雇され、退職手当のうち7割を不支給とされたため、地位確認等を求めた。被告は「郵便事業を行う株式会社」。事故は「令和5年2月28日午前7時25分頃」、原告から「呼気1リットル当たり0.53mg」のアルコールが検出され、追突された車両の運転者に「加療1週間を要する右手首捻挫の傷害を負わせた」。
  • 判断:「原告が本件事故当時、未必も含めて飲酒運転の故意(アルコール保有の認識)を有していたとは認められず」、「本件懲戒解雇は、被告の懲戒規程に反し、懲戒権を濫用したものといえるから、労働契約法15条により無効である」とした。主位的請求の賃金(月45万3850円)については、「特殊勤務手当を得られる蓋然性があったとは認められない」、「超過勤務手当を得られた蓋然性があるとは認められない」とした。「予備的請求(本件退職手当減額の無効)は判断を要しない」とした。
  • 実務上のポイント:酒気帯び運転による事故を理由とする懲戒解雇であっても、アルコール保有の認識(故意)が認められないことを前提に、懲戒規程違反・懲戒権濫用として無効とした事例。
  • 出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97133/detail4/index.html / 判決文PDF https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97133.pdf

4 知財高裁第2部 令和8年9月9日判決(令和8(行ケ)10016 審決取消請求事件。発明の名称「転がり軸受」)

  • 結論:主文「特許庁が不服2024-17594号事件について令和8年1月5日にした審決を取り消す。」「訴訟費用は、被告の負担とする。」原告は株式会社空スペース、被告は特許庁長官。
  • 事案:拒絶査定不服審判で、審決は請求不成立とした。原告は「令和7年8月20日付けで拒絶理由の通知を受けたことから、同年9月16日、意見書及び手続補正書を提出して、特許請求の範囲の記載を補正した」(本件補正)。
  • 判断:審決は「本件補正による補正前の請求項1に係る発明を対象として審理判断」しており、「本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対象として、その明確性、実施可能要件、進歩性等につき審理判断すべきであるのに」補正前の発明を対象とした「手続上の瑕疵が存在するといわざるを得ない」。「審理判断の対象を異にする以上」審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるとして、審決を取り消した。
  • 実務上のポイント:審決が補正後のクレームではなく補正前のクレームを対象に審理判断したことが手続上の瑕疵とされ、審決が取り消された事例。審決取消訴訟では、審理対象のクレームの特定も確認対象となる。
  • 出典:https://www.courts.go.jp/hanrei/97024/detail8/index.html / 判決文PDF https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97024.pdf

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。