【判例速報】東京地裁・配車アプリ「GO」の特許権侵害否定/知財高裁・サポート要件、実施可能要件(2026年8月21日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のものは3件です(うちインターネット関連1件)。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日から本日にかけて公開された分」を厳密に特定することはできません。そのため、裁判年月日ベースで直近の新着一覧を確認し、当サイトの既報分との重複を除外しています。
なお1件目は、8月18日付け速報で「原典未確認・未精査」として掲出した事件です。その後に判決文PDFが公開されたため、本日改めて精査のうえ掲載します。

1.東京地方裁判所民事第29部 令和8年7月15日判決(令和5(ワ)70502・特許権侵害差止等請求事件)【インターネット関連】

事案の概要

タクシー配車アプリを提供する原告(S.RIDE株式会社)が、被告(GO株式会社)の配車アプリ「GO」のプログラムは原告の特許第5527045号(発明の名称「情報処理装置および方法、並びにプログラム」、平成22年6月28日出願・平成26年4月25日登録)の請求項9の技術的範囲に属するとして、被告プログラムの作成・使用・譲渡等の差止めおよび抹消を求めた事案。

判断の要旨

結論:請求をいずれも棄却(訴訟費用は原告負担)。

  • 争点は構成要件A「前記アプリケーションで提供されるサービス」の充足性。
  • 裁判所は、明細書の記載(アプリケーションがクレジットカードの機能を実現するサービスを提供するためのものである旨等の記載)を根拠に、同構成要件は「アプリケーション自体がサービスとされる機能そのものを提供する場合」に限られると解釈した。
  • 原告が主張した「第三者のサービスプロバイダーサーバと連携するサービスも含む」との解釈は、明細書の当該記載はUICCにサービスが追加登録され得ることを示すにすぎず、アプリケーションとサービスの関係を定めるものではないとして排斥。
  • 被告プログラムが連携する「d払い」はNTTドコモが提供する決済機能であってGOPay自体がサービスとして提供するものではないから、構成要件Aを充足しない。構成要件B〜Dおよび無効の抗弁は判断されなかった。

実務上のポイント

スマートフォンアプリを対象とするソフトウェア特許において、外部事業者の決済・認証サービスをAPI連携で組み込む構成が「当該アプリケーションで提供されるサービス」に当たるかを正面から否定した事例です。アプリ間連携・第三者サービス連携が一般化した現在のネットサービスの実装に対し、明細書の記載に即した限定解釈により侵害を否定した点は、アプリ事業者側の防御およびクレーム起草の双方において参考になります。

出典:裁判例詳細判決文PDF

2.知的財産高等裁判所第4部 令和8年8月10日判決(令和7(行ケ)10103・審決取消請求事件)

事案の概要

原告が、特許庁の不服2023-7349号事件の審決(特願2019-569356号「眼内インプラント用の細胞増殖抑制性コポリマ」につき、特許法36条6項1号のサポート要件違反を理由に拒絶査定不服審判の請求を不成立とした審決)の取消しを求めた事案。

判断の要旨

結論:請求棄却(訴訟費用は原告負担、付加期間30日)。
サポート要件の充足には、当業者が本願発明のポリマを眼内インプラントに用いた際に、その表面に存在する生物が元来有している細胞の増殖を抑制することを認識できることが必要であるとしたうえ、発明の詳細な説明にはMDPB以外のモノマについての記載がなく、共重合ポリマの眼内での細胞増殖抑制効果を裏付ける実験例等も示されておらず、これを補う技術常識も認められないとして、サポート要件を充足しないと判断した。

実務上のポイント

化学・材料分野において、実施例に記載のない選択肢まで請求項が及ぶ場合の記載要件のハードルを示した事例です。

出典:裁判例詳細判決文PDF
※詳細ページの判示事項・裁判要旨はいずれも空欄のため、上記要旨は判決文PDFに拠ります。

3.知的財産高等裁判所第4部 令和8年8月10日判決(令和7(行ケ)10110・審決取消請求事件)

事案の概要

原告(昴テクノロジー株式会社)の特許第6906213号「温調装置及び温調装置用静電整流器並びに温調装置の効率改善方法」(令和2年10月2日出願、令和3年7月1日設定登録)について、被告(株式会社パワーサポート)が令和5年11月21日に無効審判を請求し、特許庁が令和7年9月29日に本件特許を無効とする審決をしたため、原告がその取消しを求めた事案。

判断の要旨

結論:請求棄却。実施可能要件(取消事由2)について、当業者が過度な試行錯誤なく本件発明を実施できる程度の記載がないとした。

  1. パルス状減衰波信号によるクラスター分解の作用機序が推論の部分にとどまり、技術常識からも不明であること
  2. 実施例の電極投入方法が本件発明とは異なる手段であること
  3. 電圧調整についての記載が不足していること

実務上のポイント

作用機序の説明が仮説的にとどまる技術について、実施可能要件違反による無効を維持した事例です。

出典:裁判例詳細判決文PDF
※詳細ページの判示事項・裁判要旨はいずれも空欄のため、上記要旨は判決文PDFに拠ります。

出典

本記事は、裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)掲載の以下の公式ページに基づいています。

※上記3つの新着一覧に掲載された裁判例のうち、本記事で取り上げた3件を除くものは、いずれも当サイト「判例速報」カテゴリの既存投稿で報告済みであることを確認しています。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。