【判例速報】東京地裁・芸能専属契約と消費税相当額の不当利得(2026年8月15日)

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1.東京地方裁判所 令和8年7月2日判決(令和6(ワ)29897・不当利得返還請求事件)

事案の概要

俳優・タレントである原告が、芸能プロダクション(エンタテイメント社。事業譲渡により脱退被告、さらに被告引受人へ承継)との平成16年11月21日付「芸能活動に関する専属契約」に基づいて出演報酬の分配を受けていたところ、プロダクションは制作会社から本体価格+消費税相当額を受領しながら、原告には本体価格の60%相当額(マネージメント費としてギャランティ総額の40%〔コマーシャル契約は50%〕を控除した残額)のみを支払っていた。原告が、平成26年7月から令和5年12月までの未払消費税相当額(主位的請求497万7255円、予備的請求206万5100円)およびその遅延損害金の返還を不当利得として求めた事案。

判断の要旨

主文:被告引受人に対し206万5100円および令和6年3月14日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を命じ、その余の請求を棄却(訴訟費用は5分し、その3を原告、その余を被告引受人の負担)。

理由の核心

  1. 本件契約書および本件規約には消費税相当額の取扱いに関する明示の定めがなく、プロダクション側から原告に対する明示的な説明もなかった。
  2. プロダクションが制作会社から本体価格+消費税相当額を受領しつつ、原告には本体価格の60%のみを(内税として)支払い、消費税申告においては仕入税額控除を採用していたという事実関係に照らせば、本体価格の60%に対応する消費税相当額を上乗せして支払う旨の合意があったと推認できる。原告が当初異議を述べなかったことや消費税申告の内容は、この推認を妨げる事情ではない。
  3. 原告が課税事業者であった平成26年度から平成30年度までの分については、プロダクションが原告の損失において法律上の原因なく消費税負担軽減の利益を享受したものであり、公平の見地から不当利得が成立する。
  4. 他方、原告が免税事業者であった平成31年1月から令和5年12月までの分については、原告が消費税の申告・納付をしていない以上、原告の損失において法律上の原因なく利得したとはいえず、不当利得は成立しない。
  5. 不当利得の額は、原告が実際に納付した消費税相当額206万5100円が限度であり、主位的請求の計算式による497万7255円の請求は採用できない。

実務上のポイント

  • 報酬から一定率の手数料を控除する形の継続的な役務提供契約において、消費税相当額の帰属に関する契約上の定めが欠けている場合であっても、受領側が仕入税額控除を受けている等の事情から「消費税相当額を上乗せして支払う旨の合意」が推認され得ることを示した事例。
  • 不当利得の額の上限を「請求者が実際に納付した消費税額」とし、免税事業者であった期間については損失がないとして否定した点は、インボイス制度下における報酬設計・契約審査に直接の示唆がある。
  • インターネット関連業務への影響:本判決自体はネット法分野の判断ではないが、インフルエンサー・配信者・クリエイター等がプラットフォーム事業者やマネジメント事務所と締結する報酬分配契約においても、消費税相当額の取扱いを契約書に明示していない例は多く、同様の争点が生じ得る。契約審査に際しては消費税相当額の帰属条項の有無を確認すべきである。

注記

裁判所ウェブサイトの裁判例詳細ページは、判示事項・裁判要旨・参照法条の各欄がいずれも空欄である。上記の要旨は判決文PDF(原典)の記載に基づく。

出典

※上記3つの新着一覧に掲載された裁判例のうち、本件を除くものは、いずれも当サイト「判例速報」カテゴリの既存投稿で報告済みであることを確認しています。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。