【判例速報】知財高裁・電子書籍化と出版契約の解除(著作権)ほか計2件(2026年8月6日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告の2件(うちインターネット関連1件)を取り上げます。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日〜本日に公開された分」を厳密に特定することはできません。本記事は、裁判所ウェブサイトの新着一覧(下級裁判所(速報)・新着統合一覧・知的財産裁判例集)に掲載されているもののうち、当サイトの過去の速報で未報告のものを対象としています。なお、下級裁判所(速報)新着一覧の最新掲載は令和8年7月16日判決(鹿児島地裁・既報)のままで、新規追加はありませんでした。


1. 知財高裁・電子書籍化と出版契約(準委任契約)の解除/複製・頒布の差止め

知的財産高等裁判所第1部/令和8年7月30日判決/令和8(ネ)10027(原審:東京地方裁判所 令和5(ワ)70736)/著作権侵害出版差し止め、損害賠償請求控訴事件/結果:原判決変更/権利種別:著作権 ★インターネット関連

事案の概要

医学系著作者である控訴人(個人)が、出版事業を営む被控訴人(法人)に対し、医学系書籍14冊に関して争った事案です。書籍1〜13について、被控訴人が控訴人の許諾なく電子書籍化し、会社Aを通じて販売および図書館配信を行ったと主張されました。電子書籍販売・図書館配信というインターネット上の公衆送信が関係します。

判断の要旨

原判決変更。複製・頒布の差止めを認容し、損害賠償請求は棄却しました。核心的な理由は次のとおりです。

  • 著作権使用料の支払合意があったとは認められない(控訴人の主張を不採用)。
  • 本件出版契約は「準委任契約」に当たり、控訴人は民法656条・651条1項により随時解除することができる。
  • 令和8年6月16日の解除により被控訴人は出版の権原を失った(→差止め認容)。
  • 他方、電子書籍化については控訴人が許諾していたと認められ、著作権侵害は成立しない(→損害賠償棄却)。

適用条文:著作権法112条、同83条2項、民法656条・651条1項

実務上のポイント

  • 電子書籍販売・図書館配信というネット上の利用について、「許諾の有無」と「出版契約の存続」を切り分けて判断した点が実務的に重要です。
  • 出版契約を準委任契約と性質決定し、民法651条1項による随時解除を認めたことで、解除後は将来に向けた差止めが可能になる一方、解除前の利用については許諾があれば損害賠償が立たない、という構造が示されています。
  • 著作者側・出版社側いずれの立場でも、電子化・配信の許諾範囲を契約書上で明示すること、及び解除条項の設計が重要になります。

※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。

出典:裁判例詳細(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


2. 知財高裁・売買代金請求に対する特許権侵害を理由とする相殺抗弁

知的財産高等裁判所第1部/令和8年7月30日判決/令和8(ネ)10035(原審:東京地方裁判所 令和6(ワ)3910)/売買代金支払請求控訴事件/結果:控訴棄却/権利種別:特許権

事案の概要

被控訴人(仏山市順徳区禾栄食品有限公司・中国企業)が、控訴人(株式会社BGI JAPAN)に対し、ウナギ加工品の売買代金合計71万3249.92米ドル及び遅延損害金の支払を求めた事案です。控訴人は原審で、①特許権侵害に基づく損害賠償請求権、②売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺を主張しました。特許権侵害の主張が争点に含まれたため知財高裁の管轄となっています。

判断の要旨

控訴棄却。請求を全部認容した原判決を維持しました。

  • 特許権侵害について:原告製品の「板紙の秤量」が「960〜1440g/㎡」であることを認めるに足りる的確な証拠がないため、本件発明の技術的範囲への属否を認定できない。
  • 債務不履行について:動画では加工ウナギが活きたものか既に死んだものか判然としない、チャット記録や陳述は抽象的に言及するにとどまる、公表された食品衛生法違反は本件対象契約より後の出来事で具体的内容も不明、商品単価の減額が被控訴人製品の品質に起因することを示す証拠がない、として否定。

実務上のポイント

  • 売買代金請求訴訟であっても、特許権侵害を理由とする相殺抗弁が主張されると知財高裁の管轄となる点は、越境取引の代金回収案件で留意を要します。
  • 特許のクレーム中の数値限定(本件では板紙の秤量)について、対象製品がその数値を充たすことの立証ができず、技術的範囲の属否が認定されなかった事例です。

※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄は空欄のため、上記は判決文PDFに基づく要約です。適用条文は判決文上に明示がなく未確認です。

出典:裁判例詳細(裁判所ウェブサイト)判決文PDF


本日確認したが掲載対象外としたもの

  • 下級裁判所(速報)新着一覧の掲載分は、最新でも令和8年7月16日判決(鹿児島地裁 令和6(わ)138、154号)であり、いずれも既報または刑事事件等のため対象外としました。
  • 新着統合一覧・知的財産裁判例集の令和8年6月30日〜7月29日各判決、及び最高裁令和8年7月7日・7月10日・7月13日・7月16日各判決は、7月27日〜8月5日の各速報で報告済みのため除外しています。

出典

本記事は裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)に掲載された公式情報に基づいて作成しています。判決文の全文は各出典リンクからご確認ください。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。