弊所FAQ9~真実でも名誉毀損の可能性~

Q 「Xさんが○○している」という内容を、ネットの掲示板に書き込もうと思います。真実であれば、名誉毀損にはならないですよね?

A 真実であっても、名誉毀損は成立する可能性があります。書き込まない方が良いです。

【解説】

この「○○」には色んなものが入りますので、御想像にお任せします。

どうも、「真実であることを書き込めば、名誉毀損は成立しない。」と考えている方が一定数いらっしゃるようにお見受けします。しかし、原則として、真実であろうとなかろうと、名誉毀損は成立します。
条文は以下のとおりです。

刑法第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

「公然と事実を適示し」としか書かれていません。なお、ここでいう「事実」とは、「真実」という意味ではなく、「事柄」という意味です。名誉毀損に限らず、法律において「事実」といえば、「真実」ではなく、「事柄」を指すことが多いです。

ということで、真実であろうとなかろうと、名誉毀損は原則として成立します。もちろん、確かに、例外を定めた条文もあります。

(公共の利害に関する場合の特例)
刑法第二百三十条の二 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。

①公共の利害に関する事実で、②公益目的で、③真実であれば、名誉棄損は成立しないとあります。

実は、「①公共の利害に関する事実」とは何かを考え出すと、かなり難しいです。定評あるコンメンタールである条解刑法や注釈刑法から、一般的な具体例を見つけるのは難しいです。つまり、例外規定を適用するのは難しいということです。

私見を申し上げると、たとえば、○○県の県道○○号が、陥没したにも拘らず、数年放置されているとします。ここで「○○県の県道○○号の陥没が数年放置されている。」とネットに書き込むことは、○○県が道路管理を放置しているという事実を摘示するので、○○県に対する名誉毀損にあたる可能性が出てきます。

しかし、道路の陥没情報は、その道路を使う人みんなに対して注意喚起をするので有益です。したがって、①公共の利害に関する事実といえるでしょう。

これくらいしか、具体例が思いつきません。

なお、刑法230条の2第2項で、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実」は、①公共の利害に関する事実にあたるとしています。したがって、起訴前の犯罪行為に関する事実は、①公共の利害に関する事実にあたるという訳です。

しかし、あくまで①しか満たしません。②公益目的は別途必要です。起訴前の犯罪行為全てが名誉毀損にならないという訳ではありません。

ただ、この②公益目的とは何かも考えだすと難しいです。何をもって公益と考えれば良いのでしょうか。
私見としては、私益でないものを公益と考えればわかりやすいと思います。循環論法のようで恐縮ですが、公益よりは私益の方がイメージしやすいので、御容赦ください。つまり、自分の利益を追求する目的は少ししかない場合には、②公益目的があると認められることが多いでしょう。

ですから、いくら起訴前の犯罪の被害者といっても、示談交渉が上手く行かないからといって腹いせにネットに書き込む場合は、①公共の利害に関する事実と見なされても、私益目的の要素が大きく、②公益目的がないとして、やはり名誉毀損になる可能性があるということになります。

ということで、真実の書込でも名誉毀損が成立する可能性はあるというお話でした。