弊所FAQ5~証人3人が必要な遺言って?~

Q 先日の、朝の連続テレビ小説「虎に翼」で、「(遺言書に)証人が3人署名押印しなければならない。」というシーンが出てきました。遺言書に証人が3人も必要なのでしょうか?

A 一般危急時遺言という特殊な遺言だからだと思います。自筆証書遺言には、本人1人の署名押印で十分です。自筆証書遺言であれば証人は不要です。

【解説】昨日、お二人から尋ねられただけなので、「FAQ」とは言い難いかも知れませんが、ご容赦ください。

さて、遺言書は、自筆証書遺言でよければ、証人は不要です。本人の自筆での署名押印のみで作れます(民法968条1項)。しかし、「虎に翼」では、「(遺言書に)証人が3人署名押印しなければならない。」というシーンが出てきました。これはどういうことでしょうか。

ちらっと映った遺言書によれば、「危急」の文字が記載されています。そのため、「虎に翼」に出てきた遺言書は、一般危急時遺言(民法976条)であると思われます。

(死亡の危急に迫った者の遺言)
第九百七十六条 
1 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 (省略)
3 (省略)
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。


一般危急時遺言とは、大雑把に申し上げると、もはやペンも持てなくなり、かつ、死亡の危機に瀕した方が口述で遺した遺言のことです。
本来、ペンも持てなくなるくらいに病状が悪化してしまった方にも、最後の意思を遺す手段を遺したのが一般危急時遺言といってよいでしょう。

ただ、やはり自筆と口述ではいろいろ異なります。口述ですと、聞き取った方が、聞き間違えをしたり、改ざんしたりする可能性があります。そのため、3人もの証人をつけることにより、聞き間違えや改ざんを防止するということなのでしょう。

しかも、遺言をした日から20日以内に、家庭裁判所で「確認」をしてもらわなければなりません(「検認」ではありません。「確認」です。)。

何を確認してもらうかというと、遺言書の「遺言者の真意」か否かです。つまり、聞き取った遺言書が、本当に死亡の危機に瀕した方の最後の意思を反映しているか否かを確認してもらいます。そして、家庭裁判所も確認できたら、やっと、遺言書の体裁が整います。

私が取り扱った案件の経験からすると、「確認」はかなり厳格な調査といえました。つまり、本人や証人に対し、なぜ、遺言書を作ろうと思ったのか、その場には誰がいたのか、なぜ、自筆証書遺言や公正証書遺言を作らなかったのか、など、不審な点がないかを相当丁寧に突っ込まれました。

そして「確認」が終わっても、遺言者の死亡後、「検認」が必要になるのは、「虎に翼」で描写されたとおりです。

ここからすると、「虎に翼」では、腑に落ちない点があります。
上記のとおり、「検認」の前には、「確認」があります。愛人さんは、どうやって「確認」の手続を切り抜けたのでしょうか。
仮に、「確認」を経たかのように装っても、「検認」のところで、「『確認』の手続はどうなりましたか?」などと突っ込まれると思うんですよね。

ちょっと謎の残る展開でした。