民法改正講義案6(賃貸借2)-大家の立場が動かない場合ありー
2 建物所有者が変わっても、賃貸人たる地位が移らないことがある
【第605条の2】
1 前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する 。
(1)ひとこと解説
建物の所有者が変わっても、賃貸人たる地位(=大家としての立場)は変わらないことがあります。
(2)詳細解説
建物の所有者が変わった場合、新所有者が賃貸人(=大家)となるのが原則です。たとえば、店子が入っているマンションを買おうと思っている人は、家賃収入を得ることが目的です。マンションを買った以上、自分が大家となって、家賃を回収したいと思うのは当然です。
しかし、マンションの譲渡人と譲受人との間で合意ができた場合には、譲渡人がなお大家たる地位を有することになりました(実質的には転貸借関係が発生することになる。)
つまり、新しい所有者が、自分で家賃を回収するのは面倒くさいと思った場合、これまでの大家に家賃回収を任せることが可能になりました。これまでの大家も家賃回収手数料をもらえるはずなので、WIN-WINなのです。
旧法では、店子・かつての大家・新しい所有者の、三者の合意が必要でした。仮に、1棟に複数の店子がいた場合、店子全員との合意が必要であったのです。仮に、店子が100世帯あったとしたら、その100世帯と、いちいち契約書を作り直さなければならなかったのです。
新法では、店子の合意が不要になったので、手続が簡単になったといえます。
(3)例
Aがアパートの所有者かつ大家(=賃貸人)で、Bが店子だったとしましょう。
AがCにアパートの所有権を譲渡した場合、原則として、Cが賃貸人となります。
ただし、AとCが、合意をした場合には、Aが賃貸人のままとなれるのです。
旧法では、Bの承諾がなければ、Aは賃貸人になれませんでした。
仮に、店子がB1~B100という100人であれば、100人の同意が必要であったのです。