【判例速報】広島高裁松江支部・町長の記者会見でのパワハラ公表と名誉毀損ほか計2件(2026年11月6日)

裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの2件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です。ただし1件は、記者会見での公表が名誉毀損に当たるかが争われた事案です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。各判例は、裁判所ウェブサイトに掲載された判決文に基づいて要約しています。

1 広島高裁松江支部 令和8年9月30日判決(令和8年(ネ)第24号)

事件名:慰謝料請求控訴事件(原審:松江地裁令和6年(ワ)第210号)

事案の概要

被控訴人(町)の町議会議員であった控訴人が、被控訴人代表者のA町長が記者会見において控訴人の町職員(教育課長)に対する言動がパワーハラスメント行為であるなどと発表したことが名誉毀損に当たるとして、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金350万円(慰謝料300万円及び弁護士費用相当損害金50万円)及び遅延損害金の支払を求めた事案です。原審は、公表内容は控訴人の社会的評価を低下させるが、公共の利害に関する事実であり、専ら公益を図る目的に出たものであって、真実であるとの証明があったとは認められないものの、A町長が真実であると信ずるにつき相当な理由があったなどとして、請求を棄却しました。控訴人が控訴しました。

判決の内容

  • 主文:「本件控訴を棄却する。」「控訴費用は控訴人の負担とする。」
  • 判決は、公表内容のうち、前段の「原告(控訴人)が町職員に対し、立たせたまま30分以上質問し、その間「誠意がない」等大声で職員の態度や資質に関わる発言を繰り返した」との部分は事実の摘示、後段の「これはパワハラに値する行為である」との部分は意見ないし論評の表明に当たるとしました(最三小判平成9年9月9日参照)。
  • 公益目的について、控訴人は、A町長の過去の議員への対応や、記者会見から数日後の会合での発言を理由に、控訴人を排斥する目的であったと主張しましたが、判決は、これらの事象を根拠に報復ないし排斥目的と推認するには「飛躍がある」として、専ら公益を図る目的を認めました。
  • 真実性について、判決は事実摘示部分を「立たせたまま」「30分以上にわたり質問し」「大声で「誠意がない」等と職員の態度や資質に関わる発言を繰り返した」の3つに分けて検討しました。「立たせたまま」は、生の事実としては真実であるものの、強制的な意味合いを帯びる点で「その真実性にやや問題がある」とし、「より正確には「立ったまま」と表現すべきであった」と述べました。他の2つの部分は、教育課長の証言の信用性を認めて真実の証明があったとし、全体として、一部に表現ぶりの問題などは認められるものの、重要な部分について真実であるとの証明があったとしました。
  • 判決は、論評による名誉毀損の違法性判断の枠組み(最一小判平成16年7月15日参照)に照らし、論評部分を検討しました。町の「ハラスメント等の防止及び対応に関する指針」が引用する人事院規則10-16の定義に照らし、大声で「誠意がない」等と繰り返した発言は業務上必要かつ相当な範囲を超える言動に当たると解されるとして、「パワハラに値する行為である」と論評することは、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえないとしました。また、論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったとしました。
  • 以上から、公表は全体について違法性が認められないとし、損害賠償請求は「その余の点について判断するまでもなく、理由がない」としました。

実務上のポイント

  • 原審は真実性の証明を認めず相当性で請求を棄却したのに対し、本判決は真実性の証明があったと判断しており、結論は同じでも理由が異なります。
  • 公表内容を事実摘示と論評に分け、事実摘示部分をさらに要素ごとに分けて真実性を検討しています。「立たせたまま」という表現に問題があっても、重要な部分の真実性は否定されないとした点は、公表文や投稿の表現を検討する際の参考になります。
  • 控訴人は、記者会見の報道後にネット上に控訴人を非難中傷する言葉が投稿されたことなどを損害として主張していましたが、判決は違法性を否定したため、損害については判断していません。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

2 知財高裁 令和8年11月4日判決(令和8年(行ケ)第10013号)

事件名:審決取消請求事件(原告:株式会社KINUJO、被告:株式会社KURUKURU)

事案の概要

被告の登録商標「ツヤシルクプレート」(標準文字。登録第6868235号。指定商品は第8類の「ヘアアイロン」等)について、原告が、原告の登録商標「シルクプレート」(登録第5841114号、登録第6108264号)を引用して、商標法4条1項11号及び15号に該当するとして商標登録無効審判を請求しました(無効2025-890025号)。特許庁は令和8年1月6日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、原告がその取消しを求めました。なお、判決によれば、本件商標権は、原告と被告との間の裁判上の和解に基づき、令和7年12月1日に被告の申請により抹消登録されて消滅しています。

判決の内容

  • 主文:「原告の請求を棄却する。」「訴訟費用は原告の負担とする。」
  • 判決は、結合商標の一部を要部として抽出して類否を判断することは、その部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合などを除き、原則として許されないとしました(最高裁昭和38年12月5日判決、最高裁平成5年9月10日判決、最高裁平成20年9月8日判決参照)。
  • そのうえで、「ツヤ」「シルク」「プレート」の各語は、商品の名称や品質を表示するために普通に用いられるもので、自他商品の識別力はいずれも比較的弱く、「シルクプレート」部分が強く支配的な印象を与えるとも、それ以外の部分から称呼、観念が生じないとも認められないとしました。両商標は外観及び称呼において相違することが明らかで、観念において比較し得ないとして、非類似と判断しました。
  • 原告は「シルクプレート」が原告商品を表示するものとして広く認識されていたと主張し、判決も、原告商品のヘアアイロン市場における市場占有率(数量シェア8.77%、金額シェア20.08%)や、原告の売上高(約45億円、約64億円)等を認めました。しかし、引用商標を使用した商品に係る具体的な売上高、広告宣伝費、市場占有率等は明らかでなく、引用商標を原告の商品又は商品の包装に付したものは見当たらないこと、他社(株式会社Bnext)のヘアアイロンについても「シルクプレート」と記載したウェブサイトの記事があることなどから、本件商標の登録出願時及び登録査定時において引用商標が広く認識されていたとまで認めるのは困難であるとしました。
  • 以上から、本件商標は商標法4条1項11号及び15号に該当せず、審決に誤りはないとしました。

実務上のポイント

  • 判決は、「絹女」ないし「KINUJO(キヌージョ)」が原告又はその業務に係る商品を表示するものとして広く認識され、原告がヘアアイロンの部品について引用商標の使用を開始していたとしても、引用商標自体が広く認識されていたとまでは認められないとしました。ブランド名が知られていても、部品の名称として用いてきた表示の周知性は別に立証が必要であることを示した事例です。その表示を使用した商品ごとの売上や広告の実績、商品や包装への表示の実例が重視されています。
  • 原告はウェブサイトの記事等を周知性の証拠として提出しましたが、同じ表示を他社が使っていることを示すウェブ記事も、周知性を否定する方向で考慮されています。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ページ)/判決文PDF

出典

  • 広島高裁松江支部令和8年9月30日判決(令和8年(ネ)第24号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97213/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97213.pdf
  • 知財高裁令和8年11月4日判決(令和8年(行ケ)第10013号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97235/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97235.pdf
  • e-Gov法令検索:国家賠償法1条、商標法4条1項11号・15号、人事院規則一〇―一六(パワー・ハラスメントの防止等)

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。