【判例速報】福岡高裁・トイレ内所持品検査と鑑定書の証拠排除で審理不尽により差戻しほか計3件(2026年11月5日)
裁判所ウェブサイトに掲載された裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの3件を取り上げます(インターネット関連分野に直接該当するものは0件です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。各判例は、裁判所ウェブサイトに掲載された判決文に基づいて要約しています。
1 福岡高裁 令和8年10月1日判決(令和8年(う)第66号)
事件名:覚醒剤取締法違反(原審:福岡地裁令和7年(わ)第197号。判決文冒頭の宣告日は令和8年10月1日、末尾の日付は令和8年10月26日と記載されています)
事案の概要
パチンコ店で職務質問を受けた被告人(女性)が、トイレに行きたいと申し出たところ、D警察官(女性)から「開けた状態になりますが、大丈夫ですか、嫌でしたら、所持品検査を先にお願いしてもいいですか」との言葉を掛けられ、トイレの個室のドアを開けた状態で排尿しました。その後の個室内での所持品検査で通帳の記載から被告人の氏名が判明し、強制採尿令状により差し押さえられた尿から覚醒剤成分が検出されました。原判決は、所持品検査に違法があり、令状請求の疎明資料(捜査報告書)にも経過がありのままに記載されていないとして、尿の鑑定書を違法収集証拠として証拠排除し、被告人に無罪を言い渡しました。検察官が控訴しました。
判決の内容
- 主文:「原判決を破棄する。」「本件を福岡地方裁判所に差し戻す。」
- 判決は、原審弁護人が鑑定書を証拠とすることに同意し、違法収集証拠の主張を撤回していた点について、最高裁昭和36年6月7日大法廷判決に言及しつつ、その後の最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決を踏まえ、同意があっても、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合にまで、「直ちに、当該書面が証拠能力を有するとまで解することはできず」としました。
- そのうえで、被告人がドアを開けた状態で排尿するに至った経緯や、その際の被告人の認識・心境、捜査報告書を作成したB警察官の認識等について、被告人及び警察官らに具体的な尋問がされていないとし、被告人の認識や心境を認定することなく直ちに意思が制圧されていたと推認することは「論理則、経験則等に照らして不合理であるといわざるを得ない」とし、捜査機関が「隠し事をして裁判官の令状審査をすり抜けようとした」とまで認定した原判決についても「論理則、経験則等に照らし、不合理であるといわざるを得ない」としました。
- 原審では、弁護人が違法収集証拠の主張を撤回し、検察官もこの点の立証上の問題意識を有していなかったのであるから、原裁判所には、違法の疑いを抱いている捜査活動を具体的に指摘して検察官に釈明を求めるなど、「十分に審理を尽くすための措置を講ずる義務があった」とし、これを講じなかった点に審理不尽の訴訟手続の法令違反があり、判決に影響を及ぼすことが明らかであるとして、刑訴法397条1項、379条により原判決を破棄しました。
- 控訴審で証拠調べを行って自判することは、事後審である控訴審の性質や当事者の審級の利益に照らし適切ではないとして、刑訴法400条本文により原審に差し戻しました。
実務上のポイント
- 弁護人が証拠に同意し、違法収集証拠の主張を撤回していた事案で、判決は、裁判所が釈明義務を負うのは「例外的な場合」であるとしつつ、本件の事情(鑑定書が有罪立証に不可欠な証拠であったこと等)の下では、争点化などの措置を講じないまま鑑定書を証拠排除したことは審理不尽に当たるとしました。違法収集証拠を争う側・争わない側のいずれにとっても、公判での主張の立て方と、捜査経過(警察官の発言内容や被告人の受け止め方)を具体的に立証する必要性を示しています。
2 東京地裁 令和8年8月25日判決(令和6年(ワ)第1805号、同第23761号)
事件名:請負代金請求事件(第1事件)、損害賠償及び国家賠償等請求事件(第2事件)
事案の概要
被告Company8が、宮崎県日南市内の土地上に住宅用RC造2階建の建物を建築するため、被告COGITEに設計・工事監理を委託し、原告下森建装に建築を注文しました(請負代金2億2000万円(税込))。ところが上棟後、土地が自然公園法の第二種特別地域に指定されており、建物が同法の規制に違反していることが判明し、宮崎県知事から原状回復命令が発せられました。第1事件は、原告下森建装が被告Company8及び被告INFLUX(法人格否認の法理)に未払の請負代金1億7600万円等を請求したもの、第2事件は、被告Company8が、被告COGITE・その代表取締役(被告A)・一級建築士(被告B)に債務不履行又は不法行為に基づき、被告日南市に国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償を請求したものです。日南市役所では、建築確認申請前に設計者等が各担当課を回って法令の規制を確認する「持回り確認」が行われており、被告COGITEの従業員Dが持回り確認を行った際、自然公園法の規制について市職員Eから説明があったかが争点となりました。
判決の内容
- 主文:被告Company8は、原告下森建装に対し、1億7600万円及びうち8800万円に対する令和5年3月10日から、うち8800万円に対する令和5年9月30日から各支払済みまで年10%の割合による金員を支払え。被告日南市は、被告Company8に対し、2億4613万6000円及びこれに対する令和4年6月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。原告下森建装の被告INFLUXに対する請求、被告Company8の被告日南市に対するその余の請求及び被告日南市を除く第2事件被告らに対する各請求は、いずれも棄却。訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、6分し、その1を原告下森建装、その4を被告Company8、その余を被告日南市の負担とし、第1項・第2項に仮執行宣言(被告日南市が1億9000万円の担保を供するときは第2項の仮執行を免れることができる旨の仮執行免脱宣言付き)を付しました。
- 第1事件について、判決は、建物の状態は「注文者である被告Company8の指図に従って本件土地上に本件建物を建築したことによって生じたもの」であるから、被告Company8は契約不適合を理由に請負契約を解除することができないとしました。設計・施工分離の方式で建築されており、自然公園法の規制の調査は設計を担う被告COGITEにおいて行うべきもので、施工を担う原告下森建装に調査義務はないとしています。法人格の濫用・形骸化は認めず、被告INFLUXに対する請求は棄却しました。
- 第2事件について、判決は、事前確認表の観光・スポーツ課の欄には押印のみで備考欄に記載がなく、他の課の欄には道路占有許可を要する旨が明記されていたことなどから、EはDに対し自然公園法の規制について説明をしなかったと認定しました。そのうえで、Eの対応は、Dに「観光・スポーツ課が担当する法令上の規制は及ばないものと誤解させるもの」であり、規制に反する建築がされることは予見し得たから、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとしました。
- 損害は、請負契約に基づく報酬相当額2億2000万円と被告COGITEに支払った報酬額376万円の合計2億2376万円に、弁護士費用相当損害金2237万6000円を加えたもので、社会的信用の低下による損害(150万円)の主張は認めませんでした。被告Company8の代表者が土地売買の際に規制地域に該当する旨の説明を受けていたとしても、ほとんどの建物の建築ができないことまでは認識していなかったなどとして、過失相殺も認めませんでした。
- 被告COGITE及び被告Aについては、Dに持回り確認を行わせており、持回り確認は自然公園法の規制の存否の「調査方法として最も有効かつ適切なもの」であるとして、注意義務違反を認めませんでした。被告Bについても、法令上の規制の調査は被告COGITEが行うべきものとされていたことなどから、責任を否定しました。
実務上のポイント
- 建築前に市町村の各担当課で法令の規制を確認する「持回り確認」で、担当職員が規制について説明しなかったことについて、市の国家賠償責任を認め、設計者側の注意義務違反は否定した事例です。事前確認表の記載内容が、説明の有無の認定に大きく影響しています。
- 設計・施工分離の方式で建築された本件で、規制違反の状態は注文者の指図に従って建築したことによって生じたものとして、注文者による契約不適合を理由とする解除を認めず、施工業者の請負代金請求を認容した点も、請負代金請求の実務上参考になります。
3 知財高裁 令和8年9月30日判決(令和8年(ネ)第10046号)
事件名:商標権侵害による損害賠償(不当利得返還)請求控訴事件(原審:東京地裁令和7年(ワ)第70439号)
事案の概要
「恐竜検定」の文字を含む商標の商標権者である控訴人が、被控訴人による被告標章の使用により商標権が侵害されたとして、選択的に、民法709条に基づく損害賠償金100円又は不当利得返還請求権に基づく100円等の支払を求めた事案です。原審は、本件商標と被告標章は類似しないとして請求をいずれも棄却し、控訴人が控訴しました。
判決の内容
- 主文:「本件控訴を棄却する。」「控訴費用は控訴人の負担とする。」
- 判決は、「恐竜」及び「検定」はいずれも平易な普通名詞であり、結合しても恐竜に関する知識の有無、程度を検査し、判定するという一般的な観念を生じさせるにとどまるとして、「検定試験の企画・運営、検定試験の実施」等を指定役務とする本件商標のうち「恐竜検定」の文字部分が「役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない」としました。
- 本件商標は、上下で背景色を異にし、下側に恐竜の頭蓋骨様のイラスト及び「一級 恐竜博士」等の文字が配されているなど、「恐竜検定」の文字以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めることもできないとして、「恐竜検定」の文字部分だけを被告標章と比較して類否を判断することは許されないとし、控訴を棄却しました。
実務上のポイント
- 普通名詞を組み合わせた文字部分を含む結合商標について、その文字部分を分離して類否を判断することを認めなかった事例です。検定名やサービス名を商標で保護しようとする場合、文字部分の識別力が問題となり得ることを示しています。
出典
- 福岡高裁令和8年10月1日判決(令和8年(う)第66号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97229/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97229.pdf
- 東京地裁令和8年8月25日判決(令和6年(ワ)第1805号、同第23761号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97234/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97234.pdf
- 知財高裁令和8年9月30日判決(令和8年(ネ)第10046号):https://www.courts.go.jp/hanrei/97230/detail2/index.html / https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97230.pdf
- e-Gov法令検索:刑事訴訟法379条・397条・400条、国家賠償法1条、民法709条

