【判例速報】知財高裁・キャラクター「ちぃたん☆」と須崎市の取引先通知等による営業誹謗ほか計3件(2026年10月16日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のもの3件を取り上げます(いずれも知的財産高等裁判所の判決です。インターネット関連分野に直接該当するものは0件ですが、2件目・3件目はスマートフォンのQRコード読取りを用いたタクシー運賃の精算システムに関する特許の事案です)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分を確認しています。

1 知財高裁・キャラクター「ちぃたん☆」をめぐる須崎市の取引先通知等と営業誹謗(附帯控訴により認容額を変更)

  • 裁判所:知的財産高等裁判所第2部
  • 裁判年月日:令和8年10月7日判決
  • 事件番号:令和7年(ネ)第10027号、同年(ネ)第10054号 損害賠償本訴請求、使用差止め等反訴請求控訴、同附帯控訴事件(原審:東京地方裁判所令和3年(ワ)第18479号、令和5年(ワ)第70136号)
  • 当事者:控訴人兼附帯被控訴人 須崎市(以下「控訴人」)/被控訴人兼附帯控訴人 株式会社クリーブラッツ(以下「被控訴人」)

事案の概要

本訴は、キャラクター「ちぃたん☆」を使用する被控訴人が、控訴人による被控訴人の取引先への通知及び控訴人代表者の記者会見における発言等(本件被告行為)は不正競争防止法2条1項21号所定の不正競争に該当し、不法行為に該当するなどと主張して、主位的に民法709条、予備的に国家賠償法1条1項に基づき、4316万7379円及び遅延損害金の支払を求めた事案です。反訴は、キャラクター「しんじょう君」を使用する控訴人が、被控訴人の行為は著作権(翻案権、複製権、譲渡権、公衆送信権及び上映権)・商標権の侵害、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争に該当するなどと主張して、差止め・廃棄及び金銭の支払を求めたものです。

原審は、本件被告行為は不正競争防止法2条1項21号所定の不正競争(営業誹謗行為)に該当するなどとして、本訴請求を国家賠償法1条1項に基づき損害賠償金786万2347円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容し、反訴請求をいずれも棄却しました。控訴人が控訴し、被控訴人が附帯控訴しました。

判決の結論(主文)

  • 控訴人の控訴を棄却。
  • 被控訴人の附帯控訴に基づき原判決主文第1、2項を変更し、「控訴人は、被控訴人に対し、1887万7802円及びこれに対する令和3年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」、被控訴人のその余の本訴請求を棄却。
  • 訴訟費用は、第1、2審、本訴反訴を通じて10分し、その7を控訴人、その余を被控訴人の負担とする。

判断の要旨

  • 控訴審は、原判決の理由を補正・補充したうえで引用しています。
  • 黙示の許諾:判決は、控訴人が「遅くとも平成29年12月初めまでには、被控訴人に対し、キャラクターちぃたんの利用を黙示的に許諾(本件許諾)した」と認定し、明示の意思表示や控訴人における稟議・決裁がないことによって「上記判断は左右されない」としました。本件許諾が地方自治法96条1項10号所定の「権利を放棄すること」に該当しないことは「明らかである」としています。
  • 許諾の終了:本件許諾を継続的契約と解するとしても、控訴人が解約できるのは「当事者間の信頼関係が破壊されるなど、将来にわたる契約の存続を困難にするような事由が生じた場合に限られる」とし、本件ではそのような事由が生じたとまで認めるのは困難としました。改正前民法594条、597条及び550条の類推適用の主張も排斥しました。
  • 再許諾:本件許諾は被控訴人から再許諾を得た者がキャラクターちぃたんを使用して商品を製造・販売等することを含むと解し、被控訴人が締結していた契約の内容に照らして、「被控訴人の行為が著作権法63条3項に違反するとまでいうことはできない」としました。
  • 違法性阻却の否定:控訴人は、本件被告行為に先立って、少なくとも何らかの許諾があったことをうかがわせるやりとりの記録を確認せず、被控訴人との協議も行っていないから、本件被告行為は「知的財産権の正当な権利行使に該当するとはいえない」し、地方公共団体としての説明義務を果たすための必要な行為ともいえないとしました。
  • 損害:取引先との6件の企画(CM出演、コラボ企画、商品化、ムック本等)について被控訴人の営業に係る損害を認め、その小計を1517万7802円とし、認容額を1887万7802円に改めました。

実務上のポイント

権利侵害を理由に相手方の取引先へ通知し、記者会見で公表する行為が、営業誹謗として損害賠償の対象となった事案です。判決は、事前に許諾の有無をうかがわせる記録を確認せず、協議も行っていなかった点を、正当な権利行使に当たらない理由として挙げています。取引先への警告やSNS・記者会見等での公表を検討する際は、許諾の有無を含め、事前に事実関係を確認しておく必要があることを示す一例です。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ID 97155)/判決文PDF

2 知財高裁・タクシー運賃の精算システム特許(特許第6892656号)の無効審判 審決一部取消し

  • 裁判所:知的財産高等裁判所第2部
  • 裁判年月日:令和8年9月30日判決
  • 事件番号:令和7年(行ケ)第10105号、令和7年(行ケ)第10107号 審決取消請求事件
  • 当事者:第10105号事件原告兼第10107号事件被告 S.RIDE株式会社(以下「原告」)/第10105号事件被告兼第10107号事件原告 GO株式会社(以下「被告」。特許権者)

事案の概要

被告の特許第6892656号(発明の名称「精算システム、ホスト端末、精算方法、プログラム及び車両」)について、原告が無効審判を請求しました(無効2023-800051号)。特許庁は、令和7年9月19日、訂正を認めたうえで、請求項1、3、6、11に係る発明について「本件審判請求は成り立たない」、請求項7~10に係る発明について「特許を無効とする」との審決をしました。原告(不成立部分)と被告(無効部分)が、それぞれ審決の一部取消しを求めました。

判決の結論(主文)

  • 審決のうち、「特許第6892656号の請求項1、3、6、11に係る発明についての本件審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。
  • 被告(第10107号事件原告)の請求を棄却する。

判断の要旨

  • 本件発明1(及びこれを引用する本件発明3、6):タブレット端末等にQRコード等を表示させて読み取る構成(QRコード方式)は原出願日当時の周知技術であり、タクシーの後部座席に広告等を表示するタブレット端末等を設置することも技術常識であったとして、韓国公開特許公報記載の発明(甲1発明a)に甲11記載技術及び周知技術を適用して当業者が容易に想到し得たと判断し、審決の判断には誤りがあるとしました。別の公開特許公報記載の発明(甲41発明a)に基づいても、同様に審決の判断には誤りがあるとしています。
  • 本件発明11:甲1発明b及び周知技術(配車アプリにおいてユーザ端末から行先を入力する構成)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、審決の判断には誤りがあるとしました。
  • 本件発明7~10(被告の請求):ホスト端末の発明(サブコンビネーション発明)では、請求項中の「他の装置」に関する事項が当該「他の装置」のみを特定し、当該請求項に係る発明の構造、機能等を何ら特定していない場合は、「これを除外して当該請求項に係る発明の要旨を認定するのが相当である」としました。そのうえで、管理端末の表示に関する事項を除外して要旨を認定し、本件発明7~10は甲1発明b(及び周知技術)に基づいて容易に発明をすることができたとして、無効とした審決の判断に誤りはないとしました。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ID 97142)/判決文PDF

3 知財高裁・同じ出願から分割された精算システム特許(特許第7134301号)の無効審判 審決一部取消し

  • 裁判所:知的財産高等裁判所第2部
  • 裁判年月日:令和8年9月30日判決
  • 事件番号:令和7年(行ケ)第10106号、令和7年(行ケ)第10108号 審決取消請求事件
  • 当事者:上記2の事件と同じ(原告 S.RIDE株式会社/被告 GO株式会社)

事案の概要

被告の特許第7134301号(発明の名称「精算システム、ホスト端末、精算方法、プログラム及び車両」。上記2の特許と同じ原出願(特願2017-104363号)からの分割出願をさらに分割したもの)について、原告が無効審判を請求しました(無効2023-800052号)。特許庁は、令和7年9月19日、訂正を認めたうえで、請求項1、2に係る発明について審判請求不成立、請求項6に係る発明について特許を無効とする審決をしました。

判決の結論(主文)

  • 審決のうち、「特許第7134301号の請求項1、2に係る発明についての本件審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。
  • 被告(第10108号事件原告)の請求を棄却する。

判断の要旨

  • 本件発明1、2:甲1発明a及び周知技術並びに甲11記載技術に基づいても、甲14発明aに基づいても、当業者が容易に発明をすることができたものではないとした審決の判断には誤りがあるとしました(原告主張の取消事由1及び2がいずれも存在)。
  • 本件発明6(ホスト端末):上記2の事件と同じくサブコンビネーション発明の要旨認定の考え方により、「タブレット端末からなる管理端末の管理表示部で表示される」との事項を除外して要旨を認定し、甲1発明bに基づいて容易に発明をすることができたとして、審決の判断に誤りはないとしました。

上記2・3の事件の実務上のポイント

配車アプリでの運賃精算に関する特許について、後部座席のタブレット端末にQRコードを表示させてユーザのスマートフォンで読み取る構成は容易想到と判断されました。また、システムを構成する一部の装置(ホスト端末)の請求項では、他の装置のみを特定する記載は発明の要旨認定から除外され得ることが、改めて示されています。サーバ側の装置クレームを設計する際には、他の装置の記載だけでは先行技術との相違点にならない場合があることに注意が必要です。なお、審決取消しの判決が確定したときは、特許庁の審判官が更に審理を行い、審決をすることになります(特許法181条2項)。

出典:裁判所ウェブサイト(判例ID 97148)/判決文PDF

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。