【判例速報】最高裁・保釈を許可した原々裁判の取消しは違法/福岡高裁・自殺の公務起因性ほか計3件(2026年9月4日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のものは3件です(インターネット関連分野に直接該当するものは0件)。裁判所サイトには掲載日(公開日)が表示されないため、裁判年月日ベースで直近の新着分(おおむね2週間以内)を確認しています。

1 最高裁第二小法廷・保釈を許可した原々裁判を取り消した準抗告決定の違法

最高裁判所第二小法廷 令和8年8月31日決定
事件番号:令和8(し)770
事件名:保釈許可の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件
原審:名古屋地方裁判所 令和8(む)8078(令和8年8月7日)

事案の概要
窃盗被告事件について、原々裁判が保釈を許可したところ、準抗告審である原決定がこれを取り消して保釈請求を却下したため、特別抗告がされた事案です。

判断の要旨
原決定を取り消し、本件準抗告を棄却しました。原決定は形式的な理由を示すのみで、被告人が実効的な罪証隠滅に及ぶおそれの程度が高いとみるべき実質的な理由を示しておらず、刑訴法90条・426条の解釈適用を誤った違法があるとしています。保証金額および条件を付して保釈を許可した原々裁判に誤りはないとされました。

実務上のポイント
罪証隠滅のおそれは抽象的な可能性では足りず、「実効的な」罪証隠滅の現実的可能性とその程度を実質的に検討すべきことを最高裁が明示したものです。保釈請求および準抗告への対応において援用価値が高い判断といえます。

出典:裁判例詳細(最高裁 令和8(し)770)決定全文PDF

2 福岡高裁・異動後のうつ病による自殺と公務起因性

福岡高等裁判所 令和8年8月21日判決
事件番号:令和8(行コ)5
事件名:遺族補償年金等不支給決定処分取消請求控訴事件
原審:福岡地方裁判所 令和4(行ウ)19

事案の概要
市職員であった亡Aの自殺について、遺族が公務起因性を主張して遺族補償年金等を請求したところ公務外と認定されたため、その取消しを求めた事案です。原判決が遺族の請求を認容したため、処分行政庁側が控訴しました。

判断の要旨
控訴棄却(原判決維持)。亡Aが介護保険係で約22年勤務した後に工業振興係へ異動し、定型的業務から企画立案・調整業務へという急激かつ著しい職務内容の変化を経験したこと、業務知識が不足したまま重責を担い強度の精神的負荷を受けたこと、上司の注意により部下からの支援が抑制されたことなどを認定し、うつ病の発症は公務に起因し、自殺との相当因果関係も肯定できるとして、公務外認定処分を違法としました。

実務上のポイント
異動に伴う職務内容の「質的変化」と、職場における支援体制の欠如を心理的負荷として正面から評価した高裁判断です。公務災害・労災の精神障害事案で参照価値があります。

出典:裁判例詳細(福岡高裁 令和8(行コ)5)判決全文PDF

3 知財高裁・電気コーヒーメーカー特許と意識的除外による均等否定

知的財産高等裁判所第1部 令和8年8月27日判決
事件番号:令和8(ネ)10023
事件名:特許権侵害差止等請求控訴事件
原審:大阪地方裁判所 令和6(ワ)2606
結果:控訴棄却

事案の概要
電気コーヒーメーカーに関する特許(特許第6376369号、特許第6593723号)の特許権者が、被控訴人らによる電気コーヒーメーカーの輸入・製造・販売が特許権を侵害するとして、差止めおよび3000万円の損害賠償を求めた事案です。原審は請求を全部棄却しました。

判断の要旨
控訴棄却。構成要件D-1(湯温度が90〜100℃に達したときにヒータをOFFにしスチーム圧力を発生させないこと)について、被告製品はサーミスタが97℃を検知する時点で湯温が既に100.7℃に達しており、沸騰後にヒータをオフにしているから同要件を充足しないとしました。均等侵害についても、出願審査経過においてヒータをボイラー底面に固定する構成が意識的に除外されたとして、底面固定型の被告製品は均等物に当たらないとしています。

実務上のポイント
出願経過における意識的除外を理由に均等の成立を否定した事例です。実際の測定値に基づく構成要件充足性の判断と併せ、特許侵害訴訟における主張立証の設計に参考となります。

出典:裁判例詳細(知財高裁 令和8(ネ)10023)判決全文PDF

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。