【判例速報】広島高裁松江支部・大学職員へのパワハラと慰謝料50万円(2026年9月8日)

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1 広島高裁松江支部 令和8年7月29日判決(令和7(ネ)40)

  • 裁判所:広島高等裁判所松江支部
  • 裁判年月日:令和8年7月29日
  • 事件番号・事件名:令和7(ネ)40 未払賃金等請求控訴事件
  • 原審:鳥取地方裁判所米子支部 令和1(ワ)117
  • 結果:双方の控訴をいずれも棄却

事案の概要

国立大学医学部附属病院のセンターに勤務していた有期契約職員(産官学連携コーディネーター)が、在職中に受けたとする10件のパワーハラスメントについて、大学に対し不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償500万円等を請求した事案の控訴審です。
事件名は「未払賃金等請求」ですが、時間外労働を理由とする未払割増賃金の請求部分は裁判上の和解により終了しており、控訴審では損害賠償請求のみが審理されています。

判断の要旨

裁判所は、パワーハラスメントを、①優越的な関係を背景とした言動であり、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであって、③労働者の就業環境が害されるもの、という3要件により判断しました。

主張された10件のうち、次の5件を違法と認定し、慰謝料合計50万円(及び遅延損害金)の限度で請求を認容しています。

  • 会議の場で多数の参加者の面前でされた大声での侮辱的発言
  • 約5時間の会食で上司2名に囲まれた状況下での威圧的発言
  • 事実誤認に基づく一方的かつ繰り返された叱責
  • 報告書の再提出に際してされた、萎縮させる辛辣なコメント
  • 外部講演の承認に際しての「反抗的態度」等の発言

他方、業務量の増加、業務内容の変更命令、パソコンの不具合への対応、自宅待機・休業命令については、業務上必要かつ相当な範囲を超えないとして違法性を否定しました。
また、補助金の目的外使用に関する内部告発に対する組織的報復であるとの原告の主張については、報復に基づくとの証拠がなく主観的なものにとどまるとして、損害額の算定に当たり考慮しないとしています。

実務上のポイント

パワハラ該当性を、労働施策総合推進法30条の2の定義に沿う3要件により、言動ごとに個別に切り分けて判断した点、認容部分についても慰謝料額を50万円にとどめた点が、労働事件の実務上参考になります。内部告発に対する報復であるとの主張を損害額に反映させるには、報復の意図及び因果関係についての独立した立証が必要であることも示されています。

インターネット関連業務への直接の影響はありませんが、口頭の言動について「業務上必要かつ相当な範囲」を超えるかを個別に評価する枠組みは、SNS等の投稿による名誉毀損・誹謗中傷事案における違法性の評価にも参照価値があります。

なお、裁判所公表の裁判例詳細ページでは、判示事項の要旨・裁判要旨・参照法条がいずれも空欄です。上記の要旨は判決文PDFの記載に基づいています。

出典

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。