【判例速報】知財高裁・特許「磁気シールド材」の明確性要件違反/「正圧ガス外科吸引装置」の新規性欠如(2026年9月11日)

裁判所ウェブサイトの新着裁判例のうち、当サイトの過去の速報で未報告のものは2件です(いずれも知的財産高等裁判所の特許関係。インターネット関連分野に直接該当するものは0件)。

【注記】裁判所ウェブサイトには掲載日(公開日)が表示されないため、「昨日から本日に公開された分」を厳密に特定することはできません。そのため、裁判年月日ベースで直近の新着一覧(下級裁判所(速報)・新着統合・知的財産裁判例集の3本)を確認し、当サイトの既報分との重複を個別に除外しています。裁判年月日が直近2週間以内(8月28日以降)の新着一覧掲載分のうち、下記2件以外はいずれも当サイトの既報分でした。

1.知的財産高等裁判所 第1部 令和8年9月3日判決(令和7(行ケ)10101・特許取消決定取消請求事件/権利種別:特許権)

  • 当事者:原告 北川工業株式会社/被告 特許庁長官
  • 結果:請求棄却

事案の概要

原告の特許第7207706号「磁気シールド材」(平成30年11月19日出願、令和5年1月10日設定登録)について、特許異議の申立て(異議2023-700722号)がされ、特許庁は令和7年9月12日、請求項1、5、6に係る特許を取り消す決定をしました(取消理由は進歩性欠如および明確性要件違反)。原告が同決定の取消しを求めた事案です。

判断の要旨

請求棄却。裁判所は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反を認めました。すなわち、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」厚みという記載について、「周波数帯」とは二つの周波数の間の範囲であるところ、導電層の厚みに対応する周波数の上限値・下限値が特定されなければ判別できず、明細書の【図3】によっても特定の厚みが特定の周波数帯に「応じた」ものかを判断できないとして、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であると判断しました。
実施品の商品パッケージ等に周波数帯情報が表示されるから当業者は判別可能であるとの原告の主張については、かえって特許請求の範囲の記載自体の不明確性を裏付けるものとしています。進歩性については、明確性要件違反により結論に影響しないとして判断が示されていません。

※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」欄は空欄であり、本要約は判決文PDF(courts.go.jp掲載)の記載に拠ります。なお、詳細ページが争点として挙げる「補正・訂正の許否(新規事項の追加)」に関する判示の有無・内容は本要約では未精査です。

実務上のポイント

用途や性能に「応じた」数値範囲という機能的・相対的な限定は、対応関係の上限・下限が特定できなければ明確性要件違反となるリスクが高いことを示しています。製品パッケージや取扱説明書による情報提供は特許請求の範囲自体の不明確性を治癒しない、と明言された点が実務上重要です。

出典:裁判例詳細判決文PDF

2.知的財産高等裁判所 第4部 令和8年9月9日判決(令和7(行ケ)10088・審決取消請求事件/権利種別:特許権)

  • 当事者:原告 コンメッド コーポレイション/被告 特許庁長官
  • 結果:請求棄却

事案の概要

原告の特願2018-545340号「正圧ガスを使用する外科吸引装置」(平成29年4月6日出願)につき、令和5年4月27日付けで拒絶査定がされ、原告の拒絶査定不服審判請求(不服2023-15352号)に対し、特許庁は令和6年4月24日、本願発明は公開米国特許出願第2017/0014559号明細書に記載された発明であって特許法29条1項3号に該当するとして、請求不成立の審決をしました。原告が同審決の取消しを求めた事案です。

判断の要旨

請求棄却。原告は取消事由として次の4点を主張しましたが、裁判所はいずれも排斥しました。

  • 「外科手術用ツール」の認定誤り
  • フィルタ位置・流体連通関係の認定誤り
  • 導管の形成態様の認定誤り
  • 異なる実施形態を組み合わせたモザイク的認定の誤り

裁判所は、引用文献の【0309】に吸引アタッチメントを外科器具に結合する実施形態が具体的に開示されており、図25のシステムは先行する実施形態(図1〜24の吸引装置)の構成を採用することが当然に意図されていると認定しました。そのうえで、本願発明の構成(外科器具、キャニスタ、フィルタ、受動吸引装置の接続態様等)はいずれも引用文献に記載されており、医療用吸引装置にキャニスタの吸入・排出ポート構造を設けることは技術常識であるとして、審決の引用発明の認定に誤りはないとしています。

※詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」欄は空欄であり、本要約は判決文PDF(courts.go.jp掲載)の記載に拠ります。

実務上のポイント

単一文献内の複数の実施形態を、明細書の記載の趣旨に照らして一体の開示として引用発明を認定した事例です。「異なる実施形態のモザイク的認定である」との反論の限界を示すものとして、新規性(特許法29条1項3号)が問題となる案件の主張整理に参考となります。

出典:裁判例詳細判決文PDF

精査状況について

  • 上記2件はいずれも裁判例詳細ページの「判示事項の要旨」「裁判要旨」「参照法条」欄が空欄であり、本記事の要旨は判決文PDF(courts.go.jp掲載)の記載に拠っています。原典は確認済みです。
  • 本日確認した新着一覧のうち、裁判年月日が直近2週間以内のその他の裁判例(最高裁第二小法廷 令和8年8月31日・同8月28日、大阪地裁 令和8年8月27日、知財高裁 令和8年8月27日、福岡高裁 令和8年8月21日 等)は、いずれも当サイトの既報分です。
  • 下級裁判所(速報)一覧は先頭30件のみが静的に取得可能であり、31件目以降は本日の確認範囲に含まれていません。

出典

本記事は、裁判所ウェブサイト(courts.go.jp)掲載の以下の公式ページに基づいています。

浅井裕貴弁護士(静岡県弁護士会)

静岡市清水区出身の弁護士。一橋大学・中央大学法科大学院卒業、静岡県弁護士会所属。ネットの誹謗中傷・発信者情報開示請求(意見照会・トレント対応を含む)、相続・遺言、交通事故案件に注力。基本情報技術者の知見を活かし、IT・インターネット分野の法律問題に対応している。